『幸福だ』とは言えないけど ページ45
腕を組んで日陰のベンチに腰掛けていた芥川は、瞳だけを動かして横を見た。約一人分の距離を開けた隣には、上機嫌に腕を動かしている子供が座っている。
先日渡した物を早速使っているらしい。白紙のスケッチブックに、迷いなく線が乗せられてゆく。胴を得て、脚が伸び、徐々に四足歩行の動物の形を成すそれは、子供が先程まで感心したように呆けて観察していた生き物に似ていた。
邪魔はしないつもりでいたが、子供は視線に気付いてしまったらしい。子供の手が止まり、澄んだ瞳が眼鏡越しの芥川のそれを覗き込むように優しく細められた。
「退屈か？」
「厭」
「ならよかった」
「付き合ってくれてありがとう」子供はそう言い、また手元へ視線を落とした。落ちそうになったキャスケットのつばを小さな手が押さえる。
──顔を隠すなら一人で出掛けて良いって、許可が出たんだ。
街で偶然芥川と会った子供は、表情を綻ばせてそう言った。動物園と云うところに行ってみたい、とふと零された子供の望みを叶えるべく、丁度貰った休日を持て余していた芥川は子供を連れて此処に訪れた。
「なあ芥川さん」
「何だ」
「動物園はあるのに人間園がないのは何故だ」
「倫理的な理由からだ。尤も、公にされていないだけで、見世物小屋等似たようなものは存在する」
「行ってみたい」
「それは駄目だ」
「なんで」
「お前の情操に害をなす恐れがある故」
子供は渋々といった調子で頷いた。それからすぐ、思い出したように芥川に話し掛け始めた。
「あのな、国木田さんも芥川さんみたいなこと言うぞ。よく太宰さんに父のようだとからかわれてる」
沈黙した芥川に気付かず、子供は「芥川さんも国木田さんも、お父さんみたいだ」と何気なく言った。
「そうか、�爐�父さんみたい�瓩�……」
「うん。お父さん」
子供がそう言った直後、吹き出すように笑った芥川を、子供はきょとんとした目で見つめた。
「ははは。哄笑ものだな。あの理想眼鏡の瘋癲め。貴様が忌諱するマフィアの胤に情が芽生えるとは」
芥川は一頻り笑うと、血が通っていなさそうな両手で子供の頬を挟み、此方に顔を向けさせた。
「堅気の中で顔を隠して生きるのは苦しいだろう」
「……そんな事はない」
「何故Aが記憶を失い此処に居るのかは判らぬ。帰る方法があるなら模索しよう。だがそれが叶わぬなら、その時は僕と共に居てくれ。此方に来れば、お前は、」
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです！最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです！癒されました〜！ (2019年8月25日 23時) (
レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん！ お久しぶりですね！ そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー！ありがとうございます これからもお付き合いください！ (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが！きになりすぎます！！応援していますー！頑張ってください！ (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こめ | 作成日時：2019年6月22日 21時
