火力をあげて法螺貝 ページ42
翌朝、子供はきちんと鏡花の隣で眠っていた。簀巻きにされていても一度寝入ってしまえば案外安眠できるものらしい。鏡花は寝間着から着替え、着物の袖に襷をかけながら、子供をもう一度見遣った。
丁度起床した子供と目が合った。
「御早う」
「蛇に丸呑みにされる……」
「可笑しな夢」
鏡花が筵を解いてやると、子供はもぞもぞと起き出して伸びをした。敦はまだ押し入れの中で眠っている。
朝餉の準備に取り掛かりつつ、鏡花は着替える子供に声をかけた。
「今日から貴女の外出許可が出る」
「寝巻きが藁臭い……外出許可? ああ、国木田さんが言ってたアレか」
「本当は社に居てほしい。けど皆……」
幾分か疲れた顔で『指名手配犯に似てるとかもうどうでもいい。外で運動させてやろう』と提案した国木田に、鏡花除く他の社員は皆賛成した事を思い出し、鏡花は無表情で焜炉の火力を強めた。
「訳もなく走り回りたくなる幼い衝動ともこれで決別だ」
「……なら、良かった」
鏡花の隣に並び、子供は流し台に置かれていた糠漬けの胡瓜を洗い始めた。こうして簡単に手伝える仕事を貰えるのは、自分が此処に居て良いと言われているようで嬉しい。鏡花がそれを見越しているのかは、子供には判らないが。
□□□
高らかに響く喇叭の音。孤児院の起床の合図と勘違いし飛び起きた敦は押し入れの天蓋に頭を打ち付けた。鈍い音に驚いたように襖が開けられる。
「敦、大丈夫か?」
「え、あ、院長せんせ……Aちゃんか」
押し入れから這い出た敦は、玩具の喇叭を持つ子供を見上げ、「何してるの?」と頭をさすりつつ問いかけた。
「普通に起こすのでは飽きがくるのではと」
「普通でいいよ! はあ……心臓に悪い」
敦は咎めるように子供の頬をぐにぐにと揉み、覚束無い足取りで顔を洗いに洗面所に向かった。
「御早う、敦」
「あ、鏡花ちゃん。おはよう」
「明日は法螺貝でいい?」
「近所迷惑だからやめなさい!」
何処で入手したのか法螺貝に口を当てる鏡花を止めつつ、明日からは彼女達と同時刻に起床しようと敦は決意した。
よいこの鐘がなるので→←ノイローゼになりそう(国木田さんが)
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時