よいこの鐘がなるので ページ43
国木田は子供に肩に下げられる型の水筒を持たせ、日除けのキャスケットを被せ、軍警を名乗る者に捕まったら此処に連絡するようにと自身の連絡先を書いたメモを渡した。
「見知らぬ者に着いて行くな。道路は飛び出さず、信号は左右を確認してから渡れ」
「何度も聞いたぞ」
「心配だから何度も言っているのだ! 午後五時半までには戻って来るんだぞ」
「承知した」
一人で歩道を歩く子供の姿を事務所の窓から確認し、国木田は依頼の報告書作成に戻った。
探偵社で保護するとは云え、ある程度は自由にさせるべきなのではと云うのは敦の意見だ。国木田はそれに便乗し、子供を自由に外出させる事で暫くの安寧を手に入れたという訳である。
□□□
午後五時半、空はまだ明るく、水滴に濡れた子供の睫毛は、窓から差し込む陽光を浴びて透き通るように輝いていた。
「隠れんぼの仲間に入れてもらって」
「へえ」
「砂場で砂に擬態して隠れようと試みたが無理だった」
「君は類まれなる馬鹿だな」
乱歩は断言した。子供がずぶ濡れになっている事を顧みるに、その後水場で遊ぶなり何なりしたのだろう。乱歩がその気になれば子供の一日の行動など秒刻みで分かるのだが、そんな事に超推理を使うのも阿呆らしい。
「とても涼しい」
「ちょ、びしゃびしゃのまま僕に近寄るな……春野ちゃーん! タオル!」
乱歩は事務員の春野から受け取ったタオルをエイッと子供に投げつけた。無表情で顔や髪を拭き始める子供を見て、乱歩は子どもって奴はどうしてこんなに馬鹿なんだろうと思った。
「乱歩さん。お土産あるぞ」
「蝉の抜け殻は要らないよ」
懐に手を突っ込んでごそごそしていた子供の動きが止まる。乱歩は綺麗な硝子玉なんかは好きだが、蝉の抜け殻は気持ち悪いし嫌いだ。虫取りに夢中になる同世代達を「何が楽しいのだろう……?」と本気で疑問に思う少年時代を過ごしたような奴である。
すっぱり拒否され、少し悲しそうな子供の手元を賢治が覗き込んで明るい声をあげた。
「わあ、いいですね! 僕が貰っても構いませんか? 丁度小腹が空いていて」
「食う、のか……? それを……?」
国木田は口元を手で覆った。
子供は賢治と共に蝉の抜け殻の品評会を始めている。子供は他にも生きた虫を幾つか持ち帰ってきたらしく、これは湯掻いて食べると美味しいだのこれが大量発生すると翌日は雨が降るといった薀蓄を話す賢治を尊敬の眼差しで見つめていた。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時