偽りのチェス ー1999年の秋ー

殺せ。 ページ39

『ジョースター家を始末しろ、という内容だったわ。』







紀乃の心臓がドクン、と鳴っている。


「ジョースター…って…」

『東方仗助もジョースター家をついでいる…

つまり私たちは仗助を殺るってわけよ…』

紀乃は思ったより驚いていなかった。

きっといつか来ると思っていたんだろう。
私たちの手を汚す時が。



「伶奈はどう思ってる？」
肘をつきながら私を見上げる紀乃。

『…え？』
予想外の質問だ。

「私たち、殺すのよ。人を殺す。
…殺したら、もう元には戻れない…」

紀乃…それは組織に歯向かうってこと…？


『でも…組織には逆らえないでしょ…！

もしかして…裏切るの…？』




そう言うと、紀乃の目には涙が浮かんでいた。

ー！！


「ねぇ、伶奈…どれを…
どの道を選べばいいのかわかんないよッ！」


その紀乃の様子に驚いた。


紀乃とは一緒の道を進んできたけど…

涙を見たのは初めてだ。


「今まで大人が全て私の道を決めてきたけど…ホントにこれが正しい道と言えるのッ…？

ねぇ、伶奈答えてよッ！」




…それは答えられない。

何が良くて何が悪いのか。

でも…組織を逆らえば…残る道は“死”だ。

ダメだ。逆らうなんて。


『紀乃、冷静に考えるのよ…

私だって組織に従って人を殺すなんて、怖い…

だけど、ここから出て誰が私たちを支えてくれる？

どうやって生きていく？』


紀乃が、涙でぐちゃぐちゃになった顔をあげる。


『私たちの居場所はここしかないんだよ…！！』



沈黙が続く。



「そう……そうだよね。私たちの居場所は他に無い…組織に歯向かうなんて…


殺らなきゃ…仗助たちを。
絶対こっちが弱いと分かっていても…やるしかないもの！」


ごくん、と唾をのみこむ。


そう。それでいいんだよね。

紀乃と一緒にいられるなら、私だって死ぬ気で奴らを倒す。

そうするしか、選択肢はないんだもん、紀乃。

ごめん、親友として…私だって、
本当はこんな組織から逃げてしまいたい…！！

紀乃は耐え切れない、予知も出来ない未来に怯え、まだベッドで涙を流している。

伶奈も死について考えた。

勝てっこない敵へ突っ走る。
もはや、自虐行為。

もしかしたら数日後にはこの世にいないかもしれない、
そんなことを思っていた。





そして2人は恐ろしいほど静かな夜を過ごした…

午前6時32分→←課題更新中…

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巫　紀乃

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