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凍えるようなその寒さに、車を出て思わず身震いした。でも、そこからの眺めはとても綺麗で、寒さよりもその景色に目を奪われていた。
そんな私の隣に立った先生は、景色に見惚れる私に、こんな事を言ったのだ。
「僕な、最近思ってるのはな」
「はい」
「あいつよりも、Aの方が好きかもな、って」
「へ?」
ぴたり、と時間が止まったみたいに、息が詰まる。
彼女さんより、....私?
その一言で、私の目線は夜景から先生の方へと移る。それを無視して「これが生徒としてなのか、人としてなのか、恋愛感情なのか....は、僕もわからへんけどね」なんて言った先生は、その後一呼吸置いてからゆっくりとこちらを向いた。
「じゃあ先生、私まだ....」
「?」
「まだ、先生の事....諦めずにいても、好きでいてもいいですか。いいですよね」
目線を下げて黙り込む先生のその顔を、じっと見据える。その視線に耐え切れなくなったらしい先生が、再び目線を上げて苦笑いする。
「....僕みたいなのをからかうのは止めとき。」
「からかってません、本気です」
「でも、話聞いてわかったやろ。僕『好き』ってどんなもんか、わかってないねんで」
そう言って哀しげに笑った先生に、この時私は....ああ、先生も一人の人間なんだ。って思った。
先生だし、当然歳上だし。だから、この時以前は先生の事をどこか完璧な超人のように思っていた気がする。
でも、今目の前にいる千羅先生は、先生だけど....それ以前に一人の人間だった。わからないことも、悩みもあって。
そんな千羅先生が、やっぱり好きだと思った。
「....変な話したな。寒いしそろそろ帰ろか」
そう呟いて、私の返事を聞く前に車に戻った先生。その背中を追いかけて、私もその隣に乗り込んで。
もうその時には『先生の事は諦めなきゃ』という気持ちが、薄れて消えかかっていた。
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らぱん( ・×・ )(プロフ) - 辰海恋歌さん» コメントありがとうございます! 曲通りに終わらせましたが、この先きっとこの二人は幸せになってくれると思います!こちらこそ楽しんで頂けて嬉しいです、最後まで読んで頂きありがとうございました! (2019年4月8日 7時) (レス) id: 4213176f5b (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - 完結おめでとうございます。一言言えるのは、この中では、あの子が曲名通りになれて良かった…ということです。素敵で、もどかしくて、そして温かい作品を、本当にありがとうございました。読んでいてとても楽しかったです。 (2019年4月7日 23時) (レス) id: b18219f6f9 (このIDを非表示/違反報告)
らぱん( ・×・ )(プロフ) - てこゆのさん» ありがとうございます!私も似たような現象起こるのでお気持ち分かります(笑)でもこうしてコメントして頂けるだけで嬉しいです、ありがとうございます! (2019年4月1日 11時) (レス) id: 4213176f5b (このIDを非表示/違反報告)
てこゆの(プロフ) - 完結おめでとうございます!!つい最近になってこの小説を見つけたのですが、読み始めた瞬間から引き込まれてしまいました。他の方のように何かしっかりとした感想を書こうとしても、あまりにも素晴らしくて言葉が出てきません...!胸がいっぱいです!! (2019年4月1日 9時) (レス) id: 5d44cadab1 (このIDを非表示/違反報告)
らぱん( ・×・ )(プロフ) - Rinさん» 最後まで読んで頂きありがとうございます!クオリティ高くなってますでしょうか、嬉しいです....!曲への愛を詰め込んだ結果こんな感じになりました(笑) ありがとうございました! (2019年4月1日 7時) (レス) id: 4213176f5b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:らぱん( ・×・ ) | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=d9fece3f785bc7d3ebaeeecd6103e95f...
作成日時:2019年3月19日 18時