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こういう噂は、大抵当事者の耳には入らないように広まっていく。だからきっと、先生は知らないんだろうな。
緩んだ頬を隠すように目線を落として、正解が簡単にわかる課題を、ゆっくり時間をかけて解いていく。
途中で疲れたから休憩したいなんて言って先生に声を掛けると「早よ終わらせて帰りたいもんやないの?」なんて言われて。
「別にいいじゃないですか」なんて可愛げのない返事を返しても「まぁ僕は別に良いけどね、話すの楽しいし」なんて言葉が返ってくる。
....ああ、そういうところだ。そういう所がずるい。
頭の中で、天使と悪魔が喧嘩してる。なんて比喩はよくあるけれど、この日の脳内を同じように例えるなら、天使は熱中症で倒れていた。
....悪魔だけが、私に囁き続けていたんだ。『若い時には無茶をしとけ』と言ったのは、目の前のそいつじゃないかと。
夕暮れの校舎。補講の課題を終え、冷房の効いた部屋の窓を開けたら、むわりと蒸し暑い空気が流れ込んでくる。ゆっくりその空気を吸い込んで、覚悟を決めて。
すぐ隣にある教師用の机。キーボードを叩きながらこちらを見て「窓なんか開けて、何してんの」と笑う先生の、少し緩められたネクタイをぐっと引っ張って。
そのまま先生の柔らかい唇に、自分の唇を押し付けた。
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作者名:らぱん( ・×・ ) | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=d9fece3f785bc7d3ebaeeecd6103e95f...
作成日時:2019年2月23日 17時