え？彼氏？普通に一般人ですけど。THE THIRD【となりの坂田。】 (ページ35)

今日:3 hit、昨日:10 hit、合計:72,759 hit

・ページ35

坂田side

「元気ないね」

『…？』

「ないよお」

『そう、かな？

あ、でも、ちょっと疲れたってのはある』

「疲れたかあ」

『うん』

「ほい」

『ン？』

がば、と腰を解放して両手を広げるとおずおずと俺の首に両腕をまわす。

さすが、わかってる。

体熱いけど。

「背中じゃなくて首に腕まわすのたまらんなあ。
なんかえっちい」

『キモい…』

「うるさ。
はい、頑張ったねのぎゅー」

『こんなとこ絶対お兄ちゃんに見られたくない…』

「俺だって他のやつに見せたくない」

『…すぐ、そういうこという』

恥ずかしげに目を伏せるのが、これまたえっちなんだな。

言ったら逃げられそうだから、言わんけど。

そういうのは、そういう時にたっぷり言うから。

からかいは別腹やけど。

『……最近、いつも、悠ばっか………』

すっかりやられっぱなしのAは俺の首に腕をまわしたままぎゅっと抱きついて無口になってしまった。

ありゃ、拗ねてる、かな？

はは、かわいい。

やべえ、俺、顔、たぶん溶けてる。

Aの長い黒髪を指ですきながら、話す。

「ね、俺最近発見したんよね」

『なにが』

「Aって思ってたよりさみしんぼやでな」

『…』

「すぐ照れるし、かまってちゃんやし。」

『………』

「かわええなあって。」

『…ふ、』

「…笑った？」

『笑ってない』

笑ってないもん、ともう一度小さく呟く。

うー、と唸ってからぎゅっと腕の力を強める。

自分が優位なのはやっぱり気持ちがよくて、ニヤケというか笑いが止まらない。

あ？照れてる？照れてるやーん、かーわいい！と目線を合わせようとするもがっちり抱きついたまま離れてくれない。

肩口に顔を埋められてくすぐったい。

ぽそ、とAが何かを呟いた。

俺はん？と聞き返す。

『それは…それ、はさ。

恋人の前、だからだよ？』

一瞬、その言葉の意味を考えた。

理解した瞬間、顔が熱くなる。

くそう、やられた。

自分で言っといて恥ずかしくなったらしく、Aはまたうんともすんとも言わなくなった。

くそう、かわいい。

ぐうの音も出ない。

そっかあ、俺の前だからか。

さみしんぼで、よく照れて、かまってちゃんで。

典型的な少女漫画のヒロインみたいな乙女になっちゃうのは。

「そっかあ…そっか、俺かあ…」

こくり、と頷いた彼女の頭を、感動のあまり震える手で撫で続けた。