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Aside
あの夢が、もし、私の脳に焼き付いた強烈な記憶ばかりを投影してるのなら。
『…馬鹿じゃん』
ばかばか、ほんっと馬鹿。
なんで、こんなにはっきり覚えちゃってるかなあ。
どうでもいいことに限ってしっかり覚えてるんだよね。
でも記憶って本来こんなものなのかも。
忘れようと思うほど、辛い記憶は鮮やかさをまして記憶に焼き付いていく。
もっと他に、大切なことがあるのに。
もっと大切な人が、いるのに。
無防備に寝顔を晒す悠をじっと見つめる。
『…好きだよ』
願掛けのように、何度も呟いた。
私は、すごく君が好きなんだよ。
どうか君に届いていて欲しい。
言わなくても察して欲しいと願ってしまう私を許して欲しい。
普段は素直に言えないけど。
悠が甘えてくるのも、甘やかしてくれるのも、全部大好きで、心地いい。
私にはそんなの全部がかけがえのないもので。
だからこそ、そんな幸せな記憶を邪魔する嫌な記憶の方が残っているのが腹立たしい。
胸のもやもやが喉元につっかえた気がして、俯いて小さく咳き込んだ。
もやもやは、とれない。
その時、サイドテーブルに置かれた携帯から着信音がなる。
どきり、と一際大きく跳ねた心臓を抑えながら充電器を引っこ抜き、ベッドの隅に身を寄せて液晶画面を確認した。
美月だ。
『…もしもし』
〈あんた、なんでそんな小声なのよ〉
『なんでって、隣で悠寝てるし。
どうしたの、こんな時間に』
〈ああ、ごめんごめん。
ねえ、今日Twitter見た?〉
『ううん、全然。
今起きたばっかだし。
って言っても、偶然目さめちゃっただけだけど』
〈あ、そうなんだ。
あのね、今気づいたことなんだけど、1番にAに言ってあげたくて。
なりすまし、アカウント凍結してたよ。
やったね、頑張ったじゃん〉
『…ん、そう。
じゃあこれで安心、だね』
嬉々とした声色でそう報告する美月に、静かにそういう。
どうにか微笑もうとして、頬の筋肉がぴくりと引きつった。
嬉しい報告にもかかわらず、心から笑えなかった。
それって、本当に安心なのかな。
また新しくアカウントを作り直されたら、同じなんじゃないの?
言いかけた言葉を、ぐっと飲み込んだ。
きゅぅ、と喉がなる。
胸が、痛い。
未だに激しく脈打つ心臓のせいか、嬉しい報告さえも不安の要素と化していた。
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いろみず(プロフ) - うぐぅ…尊し… (2021年9月12日 21時) (レス) id: be92b83ba0 (このIDを非表示/違反報告)
いろみず(プロフ) - 弥生2nd@夢見月さん» いつ見てもお肌綺麗ですよね…特にセンラさん(( (2021年8月7日 22時) (レス) id: be92b83ba0 (このIDを非表示/違反報告)
弥生2nd@夢見月(プロフ) - いろみずさん» そりゃもううらたさんとセンラさんはうしさせの美肌代表ですから… (2021年8月4日 0時) (レス) id: c09bebec20 (このIDを非表示/違反報告)
いろみず(プロフ) - 「いいな、その肌。くれ。」で盛大に吹いた(( (2021年8月2日 10時) (レス) id: be92b83ba0 (このIDを非表示/違反報告)
弥生2nd@夢見月(プロフ) - いろみずさん» 全然返信できてなくてごめんね…また読みに来てくれて嬉しい!さかたん応援隊が増えたなあ… (2021年7月10日 21時) (レス) id: c09bebec20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:弥生2nd@夢見月 | 作成日時:2020年11月29日 1時