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Aside

『っ!!
あ、夢か…』

布団と、お腹に巻きついていた悠の腕をはねのけて、飛び起きた。

久しぶりに感じた、心臓がひやりとするこの感覚。

まだ寒い時期だと言うのにじっとりと背中が冷や汗で濡れている。

時計は、午前3時半を指していた。

『…油断、してた』

唇をきつく噛み締め、毛布を掴んだ。

前髪をぐしゃりと握り、目の前の何も無い暗闇を睨みつける。

心臓がばくばくとうるさい。

しかも、息苦しいし、最悪だ。

深く息を吸う。

冷たい空気に、鼻がツンとした。

克服したと思ってたのに。

悔しさと苦い敗北感が染み込んだ体が重くなる。

しばらくあの手の悪夢は見てなかったから、すっかり安心しきっていた。

なのに、今日になってまたあの夢を見ることになるなんて。

冬の寒い寝室が夏の密室のような温度に感じられたのは、きっとあの夢のせいだ。

夏のむせかえるような熱気。

そんな熱気を吸った時の、なんとも言えない体のだるさ。

肩を思い切り押された感覚。

瞳を涙で潤ませ、青ざめた顔で、私を突き飛ばしたポーズのまま静止した彼女。

ドアの鍵がかけられる音。

目を覚ましたあとに見た、白い病室の眩しさ。

そのひとつひとつ、全てが鮮明に思い起こされる。

『なんで今さら、思い出すの…』

恨めしげに口にするも、それでこの不快感が消える訳もなく。

疲れてるからかな、と鼻の付け根をもむ。

ベッドの外に出るのはまだ少し怖く、布団を悠の方に押しのけ、膝を抱えて縮こまった。

自分の手の冷たさに体をぶるりと震わせ、寝ている悠のことを見つめた。

悠は少し吐息をもらし、眉をひそめてもぞもぞしてたが、数秒するとまた静止して穏やかに眠りにつく。

その安心しきった寝顔を見ながら、先ほどの夢のフラッシュバックに苦しんでいた。

話の順序も情景もバラバラでまるで真実とは異なるのに、話の内容だけは現実のままで。

怖い、嫌なシーンで溢れかえってるくせに、勇気づけられるような、希望を持てるようなシーンはなくて。

出てくる人達が全員泣きそうな顔をしているのも、容赦なく私の心を抉った。

つらい、かなしい、こわい。

手がカタカタと震える。

『………ゆう、悠』

ぼそり、と彼の名をつぶやく。

眠りが深い彼のまぶたは、持ち上がらない。

それが悲しいような嬉しいような。

私にはもう、分からない。

『………悠』

2回目の呼びかけは、1回目よりもずっと控えめで、冷たい空気に呆気なく溶けていった。

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いろみず(プロフ) - うぐぅ…尊し… (2021年9月12日 21時) (レス) id: be92b83ba0 (このIDを非表示/違反報告)
いろみず(プロフ) - 弥生2nd@夢見月さん» いつ見てもお肌綺麗ですよね…特にセンラさん(( (2021年8月7日 22時) (レス) id: be92b83ba0 (このIDを非表示/違反報告)
弥生2nd@夢見月(プロフ) - いろみずさん» そりゃもううらたさんとセンラさんはうしさせの美肌代表ですから… (2021年8月4日 0時) (レス) id: c09bebec20 (このIDを非表示/違反報告)
いろみず(プロフ) - 「いいな、その肌。くれ。」で盛大に吹いた(( (2021年8月2日 10時) (レス) id: be92b83ba0 (このIDを非表示/違反報告)
弥生2nd@夢見月(プロフ) - いろみずさん» 全然返信できてなくてごめんね…また読みに来てくれて嬉しい!さかたん応援隊が増えたなあ… (2021年7月10日 21時) (レス) id: c09bebec20 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:弥生2nd@夢見月 | 作成日時:2020年11月29日 1時

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