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「あ、えーと、おふたりさん、もう撮影始めてもいいすか?」
『あ、え、どうぞ!』
監督をしている男子が気まずそうに教室に入ってきた途端、私は志麻を押して突き放す。
「えー、もう離れるん??
もったいなー」
残念そうな声を出す志麻に、私もしまった、と思う。
せっかく、チャンスだったのに。
「よーい、アクション!」
唇を噛んで俯いている間に、志麻が私の手を取る。
やば、もう撮影始まってるんだ。
さっきまでのおちゃらけた雰囲気とはまるで違う、本当に王子様みたいな優雅な雰囲気だ。
引っ込めかけたその手を、志麻が強く掴んで離さない。
『ぇ…』
「はは、引っ込めたらあかんやろ。
だいじょーぶ、怖がらんといて。
“いつも通り”にしてればええんやから」
そんな言葉を小声で囁いて、志麻は軽いお辞儀をして上目遣いで私を見た。
「世界一美しい、俺だけのプリンセス」
もうこの時点で、私の心臓は爆発しそうだ。
どうか撮影陣が気を使って赤面している私を映さないようにしてくれることを願う。
「もしよろしければ…俺、いや、僕に君と踊る最高の名誉を」
私は、固まる。
周りのクラスメイトからの黄色い歓声や、それをなだめる撮影陣の声がどこかで聞こえる。
クラスの子が書いた台本に、そんなキザでロマンチックなセリフはなかったはずだ。
そんな思考をめぐらす私に、志麻が目線で返事を急かす。
『は、い…』
やっとの事でそう言った私に追い討ちをかけるように、彼は私の手の甲にキスをおとした。
もちろんそんなシーンも、台本にはない。
ゆっくりと私の腰に手を回して、ステップを踏み出す。
照れすぎて志麻を直視できない私に、彼がそっと囁く。
「ほら、撮ってるんやから。
せっかくやし、笑顔でおどろ?
ほら、俺も本気だしたし?」
こんなの、ずるすぎる。
前はあんなに不真面目にやってたのに。
『ずるいよ、本気だすなんて。
かっこよすぎて、死んじゃう』
そんな私のぼやきは、サディスティックな笑みを浮かべる彼にはしっかり聞こえたようだった。
__________
「志麻くん、おつかれさまー。
なんなんだよあれ、俺の時よりもカッコつけちゃってさ」
「えー、気のせいちゃう?」
「志麻くん、怒ってる?」
「べつに?
だだ野次飛ばしてきたやつらどこのクラスかなーと思ってるだけー」
「へえ…
自分の彼女を代役にさせたのも、確信犯だったりして」
「……さあ、どうやろな?」
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弥生2nd@夢見月(プロフ) - 結月。さん» 返信遅れて申し訳ございません!!めちゃくちゃ嬉しいです……もしよかったらどんどんリクエストもお願いします! (5月13日 21時) (レス) id: 98422f84d7 (このIDを非表示/違反報告)
結月。(プロフ) - 初めまして、弥生様のお話を全て夢中になって読んでおりました…。凄く大好きなお話ばかりで、読んでいてとても幸せになりました;;素敵なお話を書いて下さってありがとうございます。『一般人シリーズ』もこちらの短編小説も大好きです。これから応援しております◎ (2023年5月2日 13時) (レス) id: 5fcf3e0281 (このIDを非表示/違反報告)
弥生2nd@夢見月(プロフ) - 紫陽花さん» 返信遅くなってすみません!!ぜひ書かせて頂きたいです!素敵な設定をありがとうございます! (2023年1月11日 0時) (レス) @page46 id: 98422f84d7 (このIDを非表示/違反報告)
紫陽花(プロフ) - urtさんとsrr先生が話してて、夢主の元カレの浮気(もしくはどこからが浮気なのか)について話してて、それをたまたま聞いた夢主がurtが浮気してる(もしくはしよう)と勘違いしてるシチュを見たいです。 (2022年11月20日 1時) (レス) @page39 id: a2f685055b (このIDを非表示/違反報告)
弥生2nd@夢見月(プロフ) - 未夜さん» めっっちゃ嬉しいですありがとうございます………個人的に坂田さんの話は満足の出来だったというかこの話を思いついてから「シリーズにしちゃおう!」となったのでそう言ってくださるとめちゃくちゃ励みになります… (2022年3月19日 0時) (レス) id: c09bebec20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:弥生2nd@夢見月 | 作成日時:2020年6月6日 23時