夏の終わりが意味するもの ページ3
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三年B組に属する私は、様々な困難を乗り越えて無事校舎へと到着したのだったが、誰も居ない教室で肩を落とした。きっと、始業式なんてくだらないあの時間が体育館に流れているのだろう。わざわざ静まり返ったそこにガラガラと重たい扉を音を立てて開き、軽く頭を下げながら列にしれっと割り込む気も起きないので、仕方なく自分の席に座ることにした。
九月ともなれば、夏だという認識は若干薄くなる。頭の中で勝手に「涼しくなるはずだ」と決めつけて太陽と顔を合わせるのだから、気温の上昇は自ずと心の荒ぶりに比例するのだ。今も窓は開いているのに、カーテンが風に揺れることはない。
「A?」
不意に、声がした。机に項垂れていた私は顔を上げて音が聞こえた方へと視線を送り、ここにいるはずのないそいつに思わず首を傾げる。相変わらず、もさっとしている銀髪のそれは、午前中にも関わらず残暑が仕事している現在、見たくないと感じてしまうほどの暑苦しさであった。
「教師のくせに始業式出てないの可笑しくない?」
「生徒のくせに始業式出てねーのも可笑しいだろ」
彼は、三年Z組という何とも胡散臭いクラスの担任を受け持っている教師とは程遠い男だ。煙草臭くて不衛生、尚且つだらしがない。質問の回答を元に対象を絞込み、推測しながら想像している人物を特定するあの某プログラムエンジンが、『死んだ魚の目をしている?』と利用者に問いかけた瞬間、即座に名前が出てくると、誰かが噂しているのを聞いたことがあるくらいだ。そことイコールで結ばれる教師は、他に存在するのだろうか。
ずり落ちた眼鏡を一向に直さないところも、見ていてイライラしてくる。しかしこちらの意図も汲み取らず、彼は教室へと足を踏み入れた。……久しぶりに嗅いだな、この匂い。そこでようやく、夏休みが終わったことを実感。
「せんせ、ちょっと日焼けしてない?」
「あー……Z組の連中と海に行ったんだよ。高校最後の思い出にってしつこくてな」
「へえ、あの先生が海に?珍しいこともあるんだね」
意外にも夏を満喫していたらしい話を耳にして、前の席の椅子に腰掛けた先生は「お前は病的に白いままだな」なんて鼻で笑う。面倒だからと始業式に出ようとしないのは、立場的にやはり大問題のような気がするけれど、彼が怒られたところで私は痛くも痒くもないので、追求しなかった。
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こころ(プロフ) - 言葉遣いや、主人公ちゃんの気持ちの表現の仕方がすごい好きで、読んでいて面白いです。ゆっくりで良いので更新待ってます! (2020年9月30日 20時) (レス) id: efbab0acfd (このIDを非表示/違反報告)
小笠原@銀トッキー - この主人公のノリ、好きです!更新頑張ってください (2020年5月27日 12時) (レス) id: d7fcd729d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:堕天使 | 作成日時:2019年9月20日 20時