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拾参 波 ページ14

人生には波がある。不幸が訪れた時は、なかなか幸運な未来がくることはない。なのに、幸せが訪れた時には、必ず不幸がやってくる。
どれだけ必死にしがみついていた幸せも、乾いた砂のように脆く崩れ落ちてしまう。そして、その砂を治すことは、とても困難だ。

「母様……今、なんて?」

杏寿郎とのことがあった翌日、わたしは母に呼び出された。そういえば、最近母は家にいる時間が少なく忙しそうだったなと思う。
そして、母の言葉にわたしは耳を疑った。

「華族の方が、あなたに縁談を持ちかけてくださったのよ。今までろくに贅沢をさせてあげられなくてごめんね?辛かったでしょう」

慈愛に満ちた母の笑み。この縁談を、母は自分のことのように喜んでくれている。
相手の名前は、噂で聞いたことがある。最近話題になっている。容姿端麗成績優秀……女癖もなく、非の打ち所がない人なのだそう。
このとき初めて聞いたが、わたしの家は大量の借金を抱えていたのだそうで、相手方は、わたしが結婚しさえすれば、借金を肩代わりすると約束してくれたらしい。
嗚呼、何故だろう。こんなに魅力的な縁談なんてないはずなのに、それ以上に苦しい縁談だった。

「母様、わたしは……!」
「あ、式の準備は出来てるの。あなた、海を見てみたいと言っていたでしょう?相手の殿方から、海辺の式場でやろうという話になったの」

誰だ、話を聞いてくれそうにない。普段は優しい人なのだが、人の話を聞かない頑固さも持つ人だ。
今回の縁談は、父も賛成なのだろう。夕食の時に顔を出すや否や、おめでとう、と嬉しそうに目を細めていたから。
お前の幸せを祈っている、と。
叫び出したい。わたしの幸せを決めつけないでと。なのに、両親のあんな顔を見せられては、何もいえなくなる。
今すぐに、杏寿郎に会いたい。

「ケホッ……流石に、まだ治らないかな」

一時は治まっていた咳が、またで始めた。食欲もなく、最近は体重が減り続けている。
どうしたものか、と身体的にも精神的にも追い詰められ、わたしは部屋の隅にうずくまった。

悪いことが1つ起こると、そこから立て続けに同じ事が起こる。
流石に咳が長引き過ぎだと、わたしは両親に連れられて、病院に連行された。ただの風邪だろうに。
それに、そんな暇があるなら、杏寿郎に手紙を書きたかった。

「……杏寿郎」

家族の幸せよりも、自分の幸せを優先しようとするわたしに、ヘドが出る。
どうしても、杏寿郎の顔が、頭から離れなかった。

拾肆 隠し事→←拾弐 幸せの形



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squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時

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