* ページ10
───────
─────
───
あの子の瞳と同じ色。それだけ。たったそれだけなのに酷く胸が高なった。嗚呼、可笑しいな。これだけで運命を感じてしまうような、そんな薄っぺらい男だったかな。なんて。ただひたすらに彼女がいなくなった隙間を埋めようと、その目の前の猫に手を伸ばした。
「猫ちゃん、うち来たいん?」
そう声をかけるとその猫はぴくりと耳を動かしてから元気よく返事をした。そんな様子にも彼女を重ねてしまったことに嘲笑を浮かべながら目の前の猫を自身の上着で包み込んで足早に家へと飛び込んだ。そして家に招き入れたその子に牛乳を飲ませ、じっと見つめた。
「名前、決めなあかんな」
何がええかな、と言いながら艶々になったばかりの毛を撫でると思ったよりも触り心地が良くて撫で回しているとごろごろと喉を鳴らす音が微かに聞こえてきた。
「A」
ぱっと彼女の名前が溢れ出てきてはっと口を噤んだ。流石に彼女の名前を付けるのは痛すぎるし、名前の由来なんてリスナーに言えたもんじゃない。
「流石に、ダメやんな。あの子の名前は」
自分に言い聞かせるようにそう言ってみせるとにゃー!と嬉しそうな返事が聞こえてきた。
「気に入ったんならAにしよか」
そう言いながら撫でると擦り寄ってきて、思わず頬が緩んでしまった。名前の由来はなんとなくってことにしよう。
138人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ