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彼の家で暮らし始めて一月か二月近く経った頃。彼が初めてただいまを言わずに帰ってきた。がちゃりと玄関が閉まる音を聞きながら私は知らないフリをしてみることにして目を瞑ったまま彼を待つ。
「A」
酷く暗い彼の声にぴくりと耳を動かしてしまったが目を開けるのは我慢した。すると彼は私を撫でながら小さく息を吐く。
「あの子、結局今回のツアー最初から最後まで来てくれへんかった」
こんなにも、彼の心を揺さぶるリスナーがいるのかと、少し胸が傷んだ私は思わず目を開けてしまった。
「俺が、気づかんかっただけなんかなぁ……」
いつも、笑顔しか知らなかった。いつだって私は彼の理想の彼しか見ていなかったからこんな姿を見るのは初めてで。だから初めてみる彼のその顔を何かしてあげたいのに、この口はにゃーと鳴くことしか出来なくて、この手は彼のことを抱きしめることが出来るほど大きくなくて。
「にゃお……」
「……心配、してくれてるん?」
彼のそんな言葉と共に降ってきた手にするりと擦り寄ると彼の瞳が揺らいで、頬が緩まる。
「ごめんな、ありがとな」
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