やまだぬき、返却致します。【urt】

＊ ページ11

うらたside
　
　
　
　
　
　
　
　
　「……ホント、調子狂う」
　
　
　
　
　
　使わせてもらってる隣の部屋に入った途端、座り込んで呟いた。本当に意味がわからない。
　
　
　
　
　
　
　
『私、うらたさんになら……何されてもいいよ』
　
　
　
　


　
　そんな言葉を思い出して、脳内で叫ぶ。
　
　
　
　
　
　どこで覚えてきたの、と言いたくなるような上目遣い。それに加え、言葉はハッキリしているのに少しだけ怯えているような表情。でも、その真っ直ぐな瞳は俺だけを捉えていた。そう、俺だけを。でも​───────
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　「兄だなんて、最高の誤魔化しの言葉だよな」
　
　
　
　
　
　
　思わず、ため息をついた。本人に自覚は無いかもしれないけど兄と言われたことはちょっとショック。確かに小さい頃から知ってるけど、住んでるところも違うから年に数回しか会わなかった。だから、線引きされたような気がしてならなかったし、兄という存在、というそのままの意味ではなくて、そういう存在でい続けてくれという意味かもしれない。それに、何よりも心がざわついたのは、俺がAのことをどう思っているのか、という疑問。
　
　
　
　
　
　
　「好き……？​」
　
　
　
　
　
　本当にそれ？いや、まさか。なんだか違うような気がする。何が？と聞かれたら上手く答えられないが、何かが違う。だからこそざわめきが収まらない。
　
　
　
　
　
　
　
　
『​─────わっくん!』




　
　
　
　
　
　小さい頃そう呼ばれていたのをふと思い出した。そして、いつからだろうか。俺への呼び方はうらたさんに変わっていた。俺は変わらずAと呼び続けていたのに。それも、何か引っかかる。
　
　
　

　
　
　「もういいや」
　
　
　

　
　これ以上考えても胸のざわめきが増えるだけ。なら放棄してしまおうとそう呟いてベットに飛び込んだ。そして、スマホを開いて見慣れた名前に電話をかけた。
　
　
　
　
　
　
　

　「​─────うらさん、どうしたー？」
　
　
　
　
　
　もしもし、なんて電話の決まり文句さえ言わないコイツの声に今は少しだけ救われたような気がした。

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