夢のおくすり

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深夜の静寂に小さな寝息が耳を擽る。
俺はただ立花の寝顔を静かに見ていた。


深き夜の あはれを知るも 入る月の
おぼろけならぬ ちぎりとぞ思ふ


魅せられた口唇……

光源氏が深夜に惹き付けられた朧月夜。

蒼白く浮かぶ立花に自然と……必然的に……逆らうことなど出来なくて……

猫だけど、猫なのに……罪を犯してしまう……

あぁ……俺はもう、須磨に流されてもいいや……



目を開くと見慣れた天井。
耳元で携帯のアラームが鳴っている。

・・・・

やっと夢から醒めたか……
ベッドから降りて、リビングへ向かう。

だるい……

まるで２試合連続でサッカーした時みたいに全身がきしむ。
リビングのテーブルには母さんが残したメモとお金が置いてあった。

あぁ、そう言えば今日は学会で朝一の新幹線に乗るって言ってたな……

金を握りしめ、学校へ行く準備をしながら天気予報を見る。
点けたテレビに目が釘付けになった。

これだ！

昨晩寝る直前まで見ていたテレビ。
最後に見たのがキャットフードのCM。

たく……小塚、お前の作った薬は完全に失敗作だ。
今日学校へ行ったら文句を言ってやる！

腹立たしさを胸に顔を洗いに洗面所へ。
ふと鏡の中の自分と目が合う。
俺の視線は自分の口唇へ……
一気に顔が熱を帯び、視線は空を游ぐ。

仕方無いじゃん、俺だって男だ。
好きな女とキスくらいしたいと思うさ。
それに俺はしがない猫だった。
あれは夢だ。単なる夢だ。
黒木と立花みたいに二人で薬を飲んだ訳では無いから、立花に影響は無いはず。
落ち着け、平常心を取り戻せ。
小塚に文句を言うんだろ、和典？

・・・・

何て？ どんな文句言うんだ？

チビの事は置いといて、裕樹さんとは共感できて嬉しかったんだろ？
改めて立花への気持ちが確認できただろ？
決して“人”であったら経験できない事だったじゃん。
むしろ感謝すべきでは……

………否！
惑わされるな！

所詮“夢”なんだ。
幼児じゃあるまいし、夢と現実の境界線を見誤るな。

自身に言い聞かせ、勢いよく顔を洗った。

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