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「うん。うん……そうだな。まずは四肢を落としてやろうか。四肢を捥いだら脳天を撃ち抜こう。まずは左足、軸になっている方からしてやろうな」
「前に出すぎるのも考えものだな、的になりやすくて仕方がない」
「……その名前も久しいな。どうしてそれを? いや──尋ねるのも野暮だな……」
「こら。腰のそれは酒だから止さないか──あー、ああ……」
「お前の字は神経質すぎる。生真面目はお前の美点だが、読み手にはそれが伝わると思った方が良い。肩の力を抜くのも時には必要だよ」
「書類作業も私の仕事だよ。それとも何か、私がこの手の執務が苦手だと……お前はそう思っているのか? ──冗談だ。そう畏まらなくても良い」
「役目が欲しいのか。役目が欲しいから私の傍に? ……では、お前たちに役目を与えよう。──……ここを出て突き当たりの交差点を右に。そのまま真っ直ぐに歩き、大通りに出たら、標識のすぐ左手に……この看板が見える。この店の裏口側へ回った……そう、あのドーナツ屋の目玉を買ってくるように。…ここに、簡単な地図と費用を。できるだけ、釣り銭の出ないようにありったけ買い込んでくると良い、ああ領収証は私の名前で頼む。──では、行ってきなさい」
「ご苦労。領収証を出して。購入した品は……──良いだろう。よくよく考えたらしいな、お前たちはこれから買い出し係にでも任命しようか。……不満そうだな、今のは取り下げる。では、その箱は談話室に持って行きなさい。……私の分も置いておくように」
「残せとは言ったが、一口分だけにする奴があるか?」
「往々にして……こういった立場且つ皆を率いる者というのは、神格化され、神聖視されがちだ。ゆえに……──貫通しては、されてはならない、と。そう考える輩もいないこともない。それだけが理由ではないが……まあ、そういうわけだ。気を悪くしないでくれると助かる」
「うん。うん──……はい、姉様──。まだ、僕は、ここで死なないから──」
「姉の残滓が、私に語りかけてくるのだ。まだ──まだ、ここで倒れてはならないと。……その声がまことに姉でなかったとしても、私は潰えるわけにはいかぬのだ」
「寒い。寒い、さむい……俺の手は、まだそこに在るか?」
「──あったかい……」
「お前が覚えていなくても、私が覚えているとも」
「目には目を、歯には歯を。裏切り者には裏切り者の矜持を」
「汝、死と生を忘るること勿れ」
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