15話 ページ16
「通れないので退いてもらってもいいですか?」
ぞわりと全身が粟立つ。
一瞬、呼吸の仕方を忘れた。
ざり、と思わず後ずさる。
明らかに異様で、異物で、異常だった。
手に提げている紙袋は至って普通。
しかしそれが凶器だと錯覚してしまう程に、紙袋を持っている人間は狂気だった。
マイキー君よりも遥かに死んだ目。
そこに立っているだけなのに脳が理解することを拒絶する。
目を合わせるだけで気が狂いそうになる。
不幸と闇を体現したような雰囲気。
がくがくと体が震える。
これは、絶対的に関わっちゃいけない人間だ。
闇を背に立つその姿は、キヨマサなんかよりも格段に恐怖だった。
「あの、退いてくださ──」
「っうぁああ"あ"ぁあ"あ!?」
断末魔に限りなく近い悲鳴をあげたキヨマサの仲間達は逃げていく。
相手取っていたオレ達のことなんて気にせずに。
その人を避けるように、顔を真っ青にして、この場から走って消え去った。
辺りに静寂が訪れる。
ごくり、と誰かが唾を飲み込む音がやけに鮮明に聞こえた。
ドラケン君!ドラケン君!!ドラケン君守んねぇと……っ!
「そんな大袈裟に避けなくても……横に逸れるだけでよかったのに」
さほど気にした様子もなくオレ達の方へ歩いてくる。
がちりと恐怖で体が固まる。
そしてそのままその人は────。
「は…………」
オレ達の横を通り過ぎた。
重傷のドラケン君なんて見ていないかのように。
ボロボロのオレ達なんて気にせずに。
問いただすことも、心配することも、疑問を抱くこともせずに。
いつもの帰路につく感覚で。
「薬でもキメてたのかな」
呑気に独りごちて。
「明日の朝ご飯何にしよ」
明日の朝食のことに思考を巡らせて。
緩い足取りでこの場を去っていった。
救急車のサイレンが聞こえた頃には強烈な違和感だけを残してその人は消えていた。
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作者名:雨野夜都 | 作成日時:2021年8月24日 5時