ペリドットとアンバーvol.5【名探偵コナン】【赤井秀一】【安室透】 (ページ19)

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空を見上げて風を感じて２ページ19

　「なぜ、さくらくんはビルの屋上なんかにいたのかのう…」
博士が不思議そうにつぶやいた。
「……私がいけないんです…」
昴が苦しげな表情で話し出す。
「ん？どういうことじゃ？」
博士は努めて穏やかに、静かな声で問いかけた。

　「さくらは組織の任務でＫ国に行っていました。
そこで辛い現実があった。
やりきれない気持ちを昇華するために、さくらはある男とずっと空を眺めていた。
私がそれに嫉妬したんです」

　昴はさくらの顔を見ながら続ける。

　「他の男と空を見ていた。その事実だけで自分の嫉妬心を抑えきれなかった。
さくらを押し倒して無理やり組み敷こうとしたんです」
「なんですって？！」
哀は昴をキッと睨みつけた。
「あなた、さくらさんがなぜ空を眺めるのか知ってる？」
「え？」
昴は、哀の問いかけに答えることが出来なかった。

　「前に聞いたことがあるのよ。
時々空を眺めていることがあったから、そんな時何を考えているのって」
初めて聞く話…昴は視線を落とし、哀の話に耳を傾けた。

　「そしたらね…彼女はこういったわ。
『どうしようもなく寂しかったり、悲しかったり、辛かったりした時は空を見上げるの。
どんなに離れていても空は繋がっているでしょう。
この空を大好きな人も見ているかなって。
私の横を通り過ぎていった風も、いつか海を渡ってその人の横を通り過ぎるのかなって。
そう思うと少し元気になれたのよ』」

　「ッ！」

　「当時の『大好きな人』はきっとスコッチという人だろうけど…。
今はあなたのことよ。
任務中…空を見上げ風の中にいたのなら…会えないあなた事を考えていたんだわ」
哀の話に昴は心底驚いた。
安室からのメール。
そこに書かれていたことをようやく理解した。

　「う…ん…」
その時わずかにさくらの声が聞こえた。
三人で覗き込む。
一瞬だけ表情を歪めるとさくらの目がゆっくり開いた。

　「さくら？」
昴が優しく呼んだ。
「すば…る…さん」
声はさらに掠れていた。
さくらは昴に向かって手を伸ばすが、昴はジッとさくらを見つめて動かない。
これ以上ない程彼女を傷つけた自分が、その手を取って良いのか分からなかったからだ。

　やがてさくらの手は昴の頬に優しく触れる。
血液をたくさん失ったさくらの手は、想像以上に冷たかった。
「なん…で…泣いてる…の？お願い…泣かないで」
さくらが心配そうな顔をして昴に問いかける。
昴はその手をギュッと握った。