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「っすまないキバナ君、フライゴン、助かった。彼女、今なんと?ぼくには分からなかった」
「こちらに注意を飛ばしたんです。その足元は危険だ、と。まさかとは思いますが…古代ガラル語に聞こえます」
「古代、ガラル語?」
「古書や古詩に残ってるのみなんで、歴史系の学者かその卵くらいしか知らないでしょう。オレは宝物庫の関係で大学で齧ってたんで、聞き覚えがありました。…普段から喋る人間なんて、いないはずなんですが」
彼女が指と共に指示した場所へと恐る恐るカブさんごとフライゴンを降ろしながら、自分もゆっくりとそちらへ移動する。足踏みのしぐさをしながら向けられた言葉は、"こちらの場所なら安全です" …やはりナックルユニバーシティ時代に習った、はるか昔の言語。
とりあえずの安全地帯を確保できたことで、自分の脳は冷静に周囲の様子を把握しにかかる。
よくよく見ると自分よりは歳下かも知れない、少女というには大人びた外見。ロングヘアに、ポピーレッド色の意思の強そうな瞳。こちらを助けたは良いが、彼女もオレたちを敵か味方か考えあぐねているのだろう、用心と戸惑いが合い混ぜになった表情をしている。
相変わらず室内全体にドラメシヤが漂っている、その数ざっと20匹以上いるように見える。野生で一気にこの個体数が見られることはないし、なによりレベルが見てわかるほどに幼い。
対して、彼女の頭上に陣取るドラパルト。こちらはかなりの高レベル個体に見える。あとはフワンテ、ゴース等のゴーストタイプ達。数は多くないが、このあたりの生息ポケモン達のようだ。
部屋全体は見張り塔が現役だった時の寝所だろう跡に、多少の生活感がある。木の実籠や水桶、積みあがった本に、中身が入っている水差しとカップ。
『〇〇〇〇、〇〇』
改めて居住まいを正した目の前の彼女が口を開く。咄嗟に何と言ったのかは理解できなかったが、自分の推測は間違いなさそうだ。
長らく忘れていた講義や会話テストを急いで思い返す。深呼吸。あくまで宝物庫研究の一助としての古代語授業だったから、実用的な語句はそう多くはない。それでも、やるしかない。
『私達、あなたを攻撃しません。私の名前は、キバナ。あなたの名前は?』
『!』
目の前の彼女が、明確に驚いた反応を見せる。
『私の名前はA。あなたは私の言葉が、分かるのですか』
『少しだけ。こんばんはA、はじめまして』
『…、はじめまして』
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作者名:aks | 作者ホームページ:http://alterego.ifdef.jp/
作成日時:2022年10月1日 21時