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一緒に楽しむと紅茶に木の実の風味が混ざって、思わぬマリアージュに笑い交じりの雑談がすすむ。この間のクッキーと一緒にレシピを聞いてみれば、本をそのまま貸してくれるというので、もう聞いてもいいか、と口を開く。
『…Aは、どうしてそんなに話せるの?』
『話せる、というのは?』
『古代ガラル語…と呼ばれている、今話してる、この言葉。オレの街では喋れる人、ほとんどいない』
少し悩んだそぶりをして、んん、と咳払いする。彼女が現代語を、オレの言葉に合わせてくれる合図。
頻繁に分厚い辞典のお世話になるオレを見かねたのか、はたまた自分も喋りたいと思いはじめたのか、最近はこうして交代するように現代語で話してくれることがある。身振り手振りを交えて知っていることを教え合うのは、学生時代の気の置けない友人のようで、何とも心地いい。
「ええと、私には、先生がいました」
「先生?A、学校に行っていたの?」
「行っていないです。私が彼女…ドラパルトとこの塔、たどり着いた時、先生は一人で住んでいました」
やおら立ち上がって本棚からあれでもない、これでもないと探し始めるA。彼女がここに住んでいると聞いた時は大いに驚いたが、先人がいたらしい。生活様式の一切をワイルドエリアに頼った生活はできなくはないが、それでも近代化した街から切り離されて暮らすのは中々難しいだろうに。
目当てらしき本の中からさらに目的の箇所を指して、テーブル広げる。そこに刷られていたのは、このあたりでも極稀に巣穴での目撃情報があり、オレのライバルも所持している強力なポケモン、ギルガルドの版画だった。そんなのがこの塔に住み着いていたのだとしたら、気性が荒く呪い体質の奴も多いのに、よくまあ無事でいれたものだ。
「彼が私の先生です」
「…彼が?」
「私が、この言葉を、責めて?しかられて??えっと、すみません、難しくて言えないです。…喋りたくなかった時に、じゃあ僕のなら違う言語だから、いいんじゃないかって。それで、彼に教わりました。言葉と、いろいろな、暮らし方も」
「ギルガルドが、そう言ったの?」
「最初はこんな姿じゃなかったと、先生は言いました。ここで長く見張り番をしていたら、いつの間にか自分の剣と、一体になってしまったらしいです…あの、私の言っていること、おかしいですか?」
「んや…ちょっと、驚いてるだけだから、大丈夫」
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作者名:aks | 作者ホームページ:http://alterego.ifdef.jp/
作成日時:2022年10月1日 21時