2_07 ページ20
保護手袋なんか持ってきてないから、丁寧に振動を与えないように、ページを捲っていく。ドラメシヤが2、3匹紙面に乗っかってちょっかいをかけてきたが、青白いスケスケボディであまり邪魔になっていない。下あご部分を撫でてやれば、みゃ〜んと何とも言えない声を出して震えた。
彼女ならいとも簡単に読み下すのだろうが、残念ながら重い辞書を未だ鞄に入れっぱなしの自分では、部分的な単語しか分からない。
「『モモン』、『天日』、『果皮』…?料理本か。あー、読みてえ…ここにあいつらがいたらなあ」
ジムが休みの日には専ら宝物庫の倉庫に顔を出している顔ぶれを思い出して、ため息をつく。パンが口からはみ出てもお構いなしに本に熱中するリョウタ。こういう綻びたページを器用に貼り継いで美装するレナ。知識欲が旺盛で、よく参考本に埋もれがちなヒトミ。それ以外の宝物庫メンバーにとっても、ここにある本や家財は垂涎ものだろう。
ふと、だいぶ前にダンデ伝いに紹介されたソニア博士を思い出す。彼女は遺物というよりはポケモンにまつわる事象が専門だが、先のブラックナイト事件まわりの言動を見るに、古代ガラル文化にも当然噛んでいる。Aのことをリーグに周知した後に機会があったら、話してみるのもいいかもしれない。ダンデと一緒にひと談義でもすれば、それなりの見解は聞けるだろう。
今まで荒らされていないのが奇跡なくらいに、ここは当時のまま残っているように見えた。ドラメシヤ達が一体一体は非力な所為か、あまり粗相してなさそうなのも幸いだろう。ここにいるのがヌメラとヌメルゴンでなくてよかったと、ほんの一瞬だけ考えた。本人を前にしては口が裂けても言えないが。ごめんという意味を込めて、腰のボールを撫でる。
パラパラと分からないなりにページを進めていくと、羽音というより鈍い重低音が近づいてきて、天井の石畳が僅か振動する。いくらかもしないうちにパタパタと足音が下ってきて、家主とドラパルトが入口から顔をのぞかせた。
既に部屋で寛いでいた自分をみて、ぱっと笑うA。キバナが威圧感さえある上背の大男であるのは、彼女にはあまり関係がないらしい。今までほとんど人と触れ合ってこなかったからか、変な偏見がないのか。最初の時にカブさんが隣にいてくれたからか。
何れにせよ、住処に招いて、笑顔を向けてもいい客に自分が昇格されているのは素直に嬉しい。
84人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:aks | 作者ホームページ:http://alterego.ifdef.jp/
作成日時:2022年10月1日 21時