Astilbe Ⅱ (ページ7)

今日:28 hit、昨日:34 hit、合計:53,293 hit

鶴房汐恩#1 ページ7

「汐恩」

「んー？」

「もう、いいよ」

学校からの帰り道、意を決してそう言った

私の少し前を歩いていた汐恩はよくわからないと言った顔でこちらを向いたけど、私が真剣な顔をしているのに気が付いたのか、汐恩も表情を変えた

「…なんかあった？」

きっと汐恩なりに気を遣ってそう聞いてくれているんだろう

優しいもんね、汐恩は

家族を亡くして、独りぼっちになった小学生の夏

家族が急にいなくなって怖くて、大切な人をこれ以上失いたくなくて

「汐恩は…っ、ずっと、私のそばにいてくれる？」

幼馴染の汐恩に泣きじゃくりながらそう言った
　

「ずっとそばにいるから泣くな」

汐恩はそう言ってくれた

今思えば汐恩にとって呪いのような言葉だったと思う

その言葉をきっかけに、私は汐恩を縛りつけてしまった

汐恩は優しいから、本当にずっとそばにいてくれた

中学も高校でさえも一緒のところを選んで、出来るだけ私といるようにしてくれた

本当にありがたくて嬉しかったけど、成長していくうちに段々と罪悪感に苛まれた

私は自分の都合で汐恩の人生をめちゃくちゃにしてるんじゃないか、と

「実はね、スカウトされたらしいのよ〜」

先日、汐恩に用事があってたまたま一人で帰っている時、汐恩のお母さんに出会ってそう聞いた

韓国のアイドル事務所らしいんだけど迷ってるらしいのよ、とも言っていた

私のせいだ

私がずっとそばにいてって言ったから

このままじゃ汐恩の人生ダメにしちゃう

言わなきゃ、もういいよって

もう、汐恩がいなくても大丈夫だよって