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座って座って、なんて。もう一つの座布団と茶を薦めるAの指示に、だけど僕は答えることが出来なかった。



「.......ほんとに、」

「ん?」

「ほんとに行くの?」


 ―――生け贄の発表は昨日の村内会議のときだった。


 山羊の骨に牛の血液を垂らして。
 火をおこして蒸発させて、その瞬間に全員で頭を下げて。
 そんな、いつもと同じ行事。ルーティーン。
 その後の長老の重々しい口調も。近況報告も。

 全部。全部、...全部全部全部全部、

 いつもと、同じだったのに。



『―――今年の生け贄はAとする』

 そう言った後の全員のリアクションも。
 話の進め方も。
 会話も。口調も。...儀式の日程まで。明後日にしようだなんて、そんな、


 そんなことも、いつもと同じだなんて。
 狡いじゃ、ないか。


 生け贄のことは知らされていなかった。
 何も知らなかった。...それは僕達が子供だったから。

 十八歳になったとき。
 選ばれた女子(おなご)は生け贄となり。
 男子(おのご)は自らの存在の罪深さを知る。

 朗々と代々伝わる書物を読み上げた長老の声は。年齢相応に掠れていたというのに、そのときだけはくっきりと通っていた。

 何も知らないままに。何も知らされないままに。毎年、毎年、誰かが生け贄となる。
 豪奢な衣装。見れていないけれどきっと、化粧も施されているのだろう。
 美しい体を存分に引き立てて。だけど生死の権利はその中に黙らせて封じ込めて。

 神に捧げられるのだろう。

 目の前の、Aのように。


「何で、だよ...何でAなんだよ何で、」

 言いたいことは一杯あった。だけど言葉が追い付かない。...それら全てをまとめる僕の想いは一つなのに。一つだけなのに。

 それを口に出したら全て終わってしまう気がした。なくなってしまう気がした。

 感情を誤魔化して黙らせるように固く握っていた僕の両の手、だけどもうそんな感覚なんてなかった。...ずっとずっと、Aに手を伸ばしている気がした。その紙をひっぺがしてAを抱きしめてそのまま掴んで離れないようになってしまいたかった。

 自分でそうしているはず、なのに。
 雑な仕立ての、麻の履き物が手に当たるその感触が。


 Aに触れられないことを表しているようで、酷く不快だった。

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しろもん* - すごく良い作品ばかりで、ひたすら感動していました。私は、最後のお話が好みです。でも、本当にどの作品も素晴らしかったです。 (2020年1月21日 23時) (レス) id: 36bbb34c6c (このIDを非表示/違反報告)
アヤノ(プロフ) - 涙がボロボロで止まらなかったです。描写もどのお話も素晴らしく、Bバージョンもとても楽しみです。 (2020年1月19日 0時) (レス) id: b204067585 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:作者一同 x他4人 | 作者ホームページ:***  
作成日時:2019年12月11日 19時

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