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夜中の牢獄。
また空空寂々とした空気。
一人で寂しく長い桃色の髪の毛を編んでいると、コツリコツリと高いハイヒールが響く音がする。
この時間に珍しいな、と思いながらも桃色の髪を編む手を止めようとはしない。
鉄格子の外を歩いている人間はいつもの看守サンだ。
長く…と言っても二年程度ではあるが、彼女と顔を合わせることが何かと多いのでもう足音で彼女が来ることが分かるようになっていた。
「A、A!」
名前を呼ばれるのなんて久しぶりだったために私のことだと分からなかった。
看守サンに初めて名前を呼ばれたので柄にもなく驚いて振り返る。
その顔はいつものような化粧っ気なんてまったくない、素のままの顔で。
それだと言うのに、どこまでも美しいその顔は私が恋して病まないセンラに瓜二つである。
「何しに来たの?夜中でしょ?…あ、やっぱり私が好き過ぎて会いたくなったとか?」
いつものようにからかって、茶化して、一枚上で私が躱して。
「………声、出さんとってな」
待って、待って待って待って、
待ってよ。
何、その声。
今まで聞いていた女性の声とは違う、私が大好きなセンラの声と全く同じ声。
満足そうな笑顔で看守サンは自身の長い髪に手を伸ばして、その髪をするりと取る。
その髪が無くなったかと思いきや、短いアシンメトリーな金髪が露わになる。
その姿はセンラそのものの姿で。
一枚、また一枚と服を脱いで行く。
そして胸に敷き詰められていたパッドも捨てられて行く。
「せ、せ、んら、」
「うん。センラ。ずーっと女装しとったんやで?Aが捕まる少し前にここに入って来た。Aを逃がすために。だから、な?逃げよう。俺が着とった服、着て。俺がお前の着とる服着るから」
「でも、」
「でも、やない。時間が無いから早うしろ」
彼の瞳に見つめられてしまっては返す言葉もなかった。
彼に反論することも、抵抗することも出来なかった。
センラが来ていた看守用の服を着て、そして軍帽を被って。
長い長い髪をまとめて帽子の中に入れて、角も隠れるようにして。
彼が来ていた看守服は案外大きくなかった。
私が来ていた囚人服も少しゆとりを持っていたので彼からして窮屈だなんてこともなさそうだ。
ジャラリ、と音を立てて手足の拘束具が外される。
そうして私とセンラは手を取って、鉄格子の外へと足を踏み出した。
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しろもん* - すごく良い作品ばかりで、ひたすら感動していました。私は、最後のお話が好みです。でも、本当にどの作品も素晴らしかったです。 (2020年1月21日 23時) (レス) id: 36bbb34c6c (このIDを非表示/違反報告)
アヤノ(プロフ) - 涙がボロボロで止まらなかったです。描写もどのお話も素晴らしく、Bバージョンもとても楽しみです。 (2020年1月19日 0時) (レス) id: b204067585 (このIDを非表示/違反報告)
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