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「A、今日の用事は?」
「んぁー?今日は特に無いよ。残りの仕事終わったらそのまま帰るし」
「じゃあ皆居らんなったらここで飲まへん?」
「飲む!飲む!」
バーのカウンターやテーブルを吹いている時、後ろから声をかけられた。
このニコバーで働くことになってから約三ヶ月程が経過していた。元より顔見知りであった志麻くんとは今もこうして仲良く話しているのが私にとっての心の支えであった。
そしてもう一つ。この3ヶ月を経て分かったことがある。私は彼の事が好きだ。好きと言うのも友人や一社員として、ではなく、一人の異性としてである。
「あんま飲みすぎんなよー?後が大変やねんからな」
「流石に飲みすぎないわ…」
溜め息を吐きながら笑えば、彼もそれにつられてははっ、と笑を零した。
♚*♔*♚
「んでさぁ…、マジで〜あ〜……」
「いやあのさぁ、誰?何時間か前に後が大変だから飲みすぎんなって言ったの」
「知るかぁ!俺ぁ酔ってない!」
「どの口が言ってんの?」
彼から飲もう、だなんて誘われて数時間。全く酔う事など知らないであろう彼がこの様な状態になっていることが非常に珍しい。と言うより何だ、この酔い方。
先程から延々と同じ話をされ続けている。
「なぁAー?カクテル言葉って知っとるかぁー?」
「何それ、知らないわ」
「は?なんで知らへんねん!そんなんバーテンダー失格や!」
「誰がいつどこでバーテンダーになったのよ。知るわけないでしょうが」
「まぁ今度調べてみろ!」
訳の分からないことを言っては怒り、怒りは笑い。彼のペースに飲まれている様な気もするが別に気にすることではないし、このペースに飲まれている事が心地よくすら感じている。
カラカラとコップの中で氷が溶けて、風情な音を出す。耳に心地よい音が響き、店内に流れるジャズの音楽とのハーモニーを奏でる。
「志麻くん、カクテル言葉は今度調べるけど家に帰らなくていいの?」
「あー、帰る!帰らなあかん!よし!帰ろー!」
「酔いすぎだってば…ほら、帰ろう」
「おーう、タクシー呼んでくれA〜」
ハイハイ、とため息混じりに呟きスマホを操作する。こんな私の考えが甘すぎたのかもしれない。彼の口車にまんまと乗せられていた事に私は気付かなかったのだ。
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