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「今日の昼にカフェで煽ったけど、それはお前の能力が事務だけじゃなくて仕事にも応用できるって確認したかっただけだし。
お前は例えお茶汲みでもその仕事が客のためになると思って誠心誠意尽くすやつだって端から確信してた」
「えっ......その評価は嬉しいですけどどこでまたそんな過大評価を、」
「勤務態度とプレゼン見りゃわかる」
そう断言した浦田さんに、私はしがみついて泣きそうになってしまった。
仕事だから頑張らなきゃと思っていた。
惰性でもやれることをやらなきゃと思っていた...例えそれが、誰にも見つからなかったと、しても。
見つけてくれた。認めてくれた。
この短期間で。
この会社に小さく埋もれていた、私を。
「...で、返事は?転職するか、否か」
「明日辞表出します」
「駄目だ今日にしろ」
「あっはい」
「それから、もう取引先じゃないんだから浦田さま、なんて畏まるな」
「え、っと......浦田、さん」
私の心の中では、なぜかずっと浦田さんと呼んでいて。
だけどそれを声に出すのに、なぜか抵抗があって。
良い子だ、と頭を撫でられたときの心の動きは、ゴンドラよりずっと激しく、だけど妙に暖かい。
エレベーターが一階に到着する。
「ライバルと交友結ぶなんて、ロミジュリみたいだな」
先に降りて、私のために扉を押さえながら浦田さんはそう笑った。
ああそうだ、確かにそうかもしれない。
だけど、と、彼を見やる。
“どうしてあなたがロミオなの”、なんて、私に言わせない、少なくともその一点においては。
私が着いていくと決めた彼は、世界で一番愛されたラブストーリーのヒーローよりも勝っているのだった。
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