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「先程の件なのですが......」
遠慮がちに代替案を差し込む。今だけは課長を見ない。弊社サイドに振り向かない。
「お前、しゃしゃり出るんじゃ...「更にこのデータをご覧ください。こちら材料費のコストカットについてのグラフになっておりまして...」..............っ!!」
課長の制止を言葉の渦で黙らせる。相手にとって納得できる材料を、双方に利益のある方法を、
提示する。擦り合わせる。突き詰める。
笑う相手先を想像する。商品を手に取るお客様を顧客先を思い浮かべる。
その人たちが幸せになれますように。
その手助けに、少しでもなれますように。
ああ。
仕事って、こんなに楽しかったんだ。
精一杯プレゼンする。どこがいいのか、何がいいのか、伝わるように、届くように、
「鈴木!!」
肩を掴まれて振り向かされる。
激怒で赤く染まった顔の課長がいる――――――ああこれは詰んだわ。
男尊女卑のこの会社。くそ食らえと思ったって、ルールがルールとして成立している以上、守られなかったらバイバイなのだ。
来客中とはいえ、殴られるかもしれない...そんなことを覚悟していると。
ぱちぱち。
ぱち、ぱち、ぱち。
空虚な拍手の音が、緊迫した室内に響いた。
◆◇◆◇◆◇
「いやぁ先程から拝聴していましたが実に見事なプレゼンでした!的確でわかりやすい資料の引用にそれを活かす語彙力、どちらもよく備わっている」
そう切り出した浦田さんの顔は不敵だった。 目尻は下がり口角は上がっているのに、その瞳の奥で何かを企むような。
滑らかに話しながら、私の肩にある部長の手をするりと外し、腕を軽く掴んで引き寄せた。
彼の瞳には、カフェで感じた不愉快さは微塵も感じられなかった。真摯さと確信と―――そして、
やっと手に入ったと叫ぶような。
強い渇望の果てが見えた。
「鈴木さま。鈴木、Aさま。
あなたをヘッドハンティングしに来ました。――――――――――――俺についてこい」
「......えっ、」
自分に向けて発された言葉の意味が理解できないうちに、課長もその部下も置き去りのままに。
腕を引っ張られて、会議室を出た。
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