今夜貴方と二人、オフィスにて。ver.A (ページ18)

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棘のある語尾にも眉一つ寄せず、「えぇそんなことないと思うけど」と相変わらず関西訛りの柔らかい言葉で返す折原さんに、むしろこちらの眉が寄った。

余裕綽々でのらりくらりと躱されている事実が気に食わなかった。

「絶対チャラいでしょ。学生時代遊んできた感じめっちゃしますし」

「うーん……まぁ多少は、って感じ？もうこの歳なるとな、色々丸なってくんねん」

「折原さんまだ若いじゃないですか」

「俺ぁなぁ、色々あり過ぎて日に日に体ごと老けていってんのー！」

『色々』。

彼の言う色々が何かは皆目検討がつかなかったが、そう言えば彼は無趣味を名乗る割に有給をよく取っていた。しかも、休みをとった割に翌日中々辛そうな顔をして出勤するのだから本当に謎だ。

「……折原さんって、休みの日何されてるんですか」

「Aさんからこんなに質問来るって珍しいな。なに？俺のこと気にしてくれてるん？」

「べつに……趣味とかそういうの、ないって仰ってたから、有給とって何されてるのかなって思って」

「へー、Aさんって結構人の事見てんねんなぁ」

「そうやって、すぐはぐらかす」

本当にお上手ですね、と主語を明らかにしない言い方をすると、さすがに頭上にある眉が面倒そうに跳ねた。その一瞬感じた冷めた視線に背がすっと冷えて、咄嗟に「ごめんなさい」と小さく零してすぐにその場から離れた。

彼が、私のきつい物言いに顰蹙しないからといって少し尖った言い方をし過ぎた。けれど、まるでマニュアル対応みたいな受け答えに苛立ってしまったのは事実だ。彼との問答の『答』の部分に、きっと本当のことなんて半分くらいしか含まれていない。あの人はそういう人だ。だから苦手なんだ。

昔から、気が付かない方が良い人の根っこの部分や素の部分に気づいてしまう節のあった私は、元々の歯に衣着せぬ物言いやストレートな性格と相まって相手を不快にさせることが多かった。

けれど折原さんは、私が投げてしまった棘をなんの躊躇いもなく笑って流してしまう人だった。それは、恐らく他人に興味がないからだ。興味が無いから気にならない。興味が無いから不快にもならない。眼中にも無い。受け答えも的確じゃなくて、テキトー。

あぁ本当に、苦手で仕方がない。