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「すみません、いきなり不躾でしたね」
「あーいや、」
別にええよ、なんて言って口元に笑みを作る彼の笑顔を見て、あぁやっぱり苦手だと改めて思ってしまった。
恋人の有無を尋ねたのも、私の同期の友人が折原先輩が気になるんだよねと零していたからというだけだ。そこに深い意味は全くない。私から仕事の要件以外で折原さんに話しかけるのはこれが最初で最後になるかもしれないのだが、初めて出した話題がこれなら多少引かれても仕方ないかと思う。別に彼に引かれようが嫌われようが心底どうでもいいことだ。
「なんていうか、誤解はせんで欲しいんやけど」
それ以上の会話をあまり望んでいなかったのだが、彼はそう切り出して少しの間を置いた。それ以降の言葉を紡ぐか悩んでいるような素振りだった。
「……あれ、俺の」
「……はい?」
一瞬彼の言った「あれ」の指示語の指すところが分からなかった。なんなら彼の視線が向く方向に「あれ」があるのかとすら思ってしまったが、視線を辿っても冷ややかな床があるばかりだった。
「……あれって、あの、マックのアイシャドウですか」
「うん」
「女装趣味があるんですか?」
「せやから誤解はせんでって言うたのに」
「どの誤解か分かりませんよ。私京都人じゃないので、そんなオブラートに包まれても分かりません」
ほんまAさんって結構言うよなぁ、なんて言う折原さんは相変わらず口元が笑ったままだ。
ちなみに下の名前で呼ばれているのは、オフィス内の先輩に私と同じ苗字の人がいてややこしいから。別に折原さんと親しいから彼だけに下の名前で呼ばれているという訳では無い。
「まぁなんて言うんやろうな……たまーに使うんよ。女装とかじゃなく」
「はぁ……化粧に興味があるんですか?」
「まぁそういうことでええわ」
「あ、別に私女装趣味とかに偏見ないですよ」
「だから女装趣味やないっちゅうに」
つか声でかいし、と零す折原さんに、昼休憩なんだから別にいいじゃないですかと返して椅子に座り直した。相変わらずクーラーが効きすぎているので尻が冷たい。
「でも恋人はいるでしょ?」
「えー?おらんよほんまに。むしろ欲しいわ。募集中って感じ」
「折原さんって、オフィスの人達気付いてないだけで実はチャラいですよね」
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