第45話 ページ46
ヒロキside
__2年前_アメリカ__
僕は絶句した
だって今まで閉まっていた筈のドアが
勝手に開いたんだから
だって、監視の目が張り巡らされている筈のこの部屋に
真正面から侵入者がやって来たんだから
『だ、だれ……？』
恐る恐る、その影に声をかける
凄く綺麗だけど、知らない顔だ
凛とした黒い髪に
雪のように白い肌
薄暗いこの部屋では、それらがやけに儚く映った
どうやって入って来たの？
監視の目はどうやって潜ったの？
色んな疑問が頭を駆け巡ったけど
何となくその質問は必要ない気がした
それは、僕が知らなくても良い範囲だ
「私は羔野と申します」
そう言ってその人は
ゆっくりとお辞儀した
丁寧に告げられた名前に
洗練された美しい所作
思わず、童話に出てくる様な王子様を連想した
でも
これだけ特徴的な人が居れば忘れる訳が無い
やっぱり、知らない人だ
収まった筈の警戒心がぶり返してきて一歩後ずさると
その人は困った様に笑った
静かに肩を揺らす姿は
日本人の言う“奥ゆかしい”を体現していて
今度は、昔読んだ“かぐや姫”のお話を思い出した
この人、コロコロ印象が変わるなぁ
「っふふ、矢張り此方の名前の方が良かったですかね……」
イタズラっぽい含みのある言い方に
知的好奇心が刺激される
まるでホームズに振り回されるワトソンになったような気分だ
“早く先を教えて”と目で急かすと
その人の顔にニッコリと慈愛に充ちた笑みが浮かんだ
この際、子供扱いされている事なんかは気にしない
…
__Lamb·Field__
囁くように零されたその名前に
思わず肩が跳ねた
知ってる
僕はこの人の名前を、とても良く知っていた
恐らく、毎日その名前を目にするぐらいには
でも、逆に言えば
知っているのは名前だけだった
だから、こんなに綺麗な人だったなんていうのも
今初めて知ったし
…
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作者名：＿名前を変える必要がある | 作成日時：2019年6月23日 16時
