baby I love you

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それを今、俺にやってくれているというんだろうか。Aが10歳になるくらいまでの頃にやってあげていたことを。


「…俺今何歳だと思ってる？」
「26ちゃい」
「……ほんとに、うつるから」
「うつんないって。大吉だもん」
「だから何なんだよそれ」
「年明け早々風邪引いちゃったからって気弱になってる優太くんには、縁起のいい女が一緒にいてあげる」
「…何、」
「風邪引いちゃったのはね、小吉だから仕方ないよ。でも大吉の私がそばにいれば大丈夫でしょ？」



向けられる得意げな笑みに、謎の説得力があった。
思わず黙ってしまう。もう一度握った手に力が込められた。

見抜かれている。必要以上に気にしてしまっていたことも、見た目以上に落ちて心細くなっていたことも、全部。全部見抜いたうえで、今の俺のために選んでくれた言葉や行動なのだと分かる。…いやいやいや、何だそれ。ちょっと。もう。
昔自分が幼いAにしてあげたことをこうして同じように返されるというのは、何とも言えない不思議な気持ちだった。恥ずかしくて、こそばゆい。そんな風に恥ずかしく思っていることが伝わることさえも恥ずかしくて、ぶっきらぼうに「そりゃどうも」と返した。あぁもう。



「起きた時何食べたい？お雑煮あるけど、お粥作る？」
「…お雑煮でいいです」
「黒豆もあるよ。消化には良くないけど、縁起物」
「…食べます」
「今年もまめまめしく働いてね」
「……はい、頑張って働きます」



小さくて弱くてただ守るべき存在だったはずのAに、こうして反対に俺が守られてしまうこと。恥ずかしいしこそばゆかったけれど、もしかしたら家族ってそういうものなのかもしれない、とも、思う。
だって俺の知らないところでいつの間にかこんなにも、逞しく、頼もしくなってしまうのだ。本当は受験だって何だって、俺が心配する必要なんて一つもないのかもしれない。
大人しく手を握られたまま、眠りについた。
そうしてほぼ四六時中同じ空間にいながらも、縁起のいい女のAさんにはその宣言通り俺の風邪がうつるなんてことはなかった。
「できた娘だなぁ」と言えば、「親の顔が見てみたいでしょ」なんて小憎らしい言葉を返すもんだから二人して笑った。






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