baby I love you

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見せつけるように大吉を目の前に広げられる。「うぜー」なんて言いながらも“願い事”と“学問”の欄に真っ先に目をやって、文句のつけようのないくらいに良いことばかりが書かれてあるからとりあえず安心した。

Aは今年受験生だ。模試の判定はがっつり合格安全圏らしいのだけど、それでもAが人生で初めて進路を決める重大な試験を前に心配と不安でいっぱいの俺に対して、当の本人は至って余裕の様子で構えていた。

今も俺のベッドの脇に持ってきた椅子に腰掛けて、ものすごく適当な感じに英単語帳を捲っている。およそ受験生らしい危機感や必死感はない。いやまぁ自分の中三の時にそのような必死さがあったかと聞かれればそれはなかったんだけれど、しかしAの志望校はなかなかレベルの高いところなのだというのだからやはりこれでは心配だ。俺が。だって、今年の俺は幸先がよろしくないのだから。



「自分の部屋でやれよ」
「寝れない？」
「寝れるけど、うつるから」
「うつんないよ。大吉だし」



どんな理屈だ。「受験生なんだぞ」と言って聞かせようとしたところで咳き込めば、「小吉なんだから安静にしてなよ」と諭される。どんな理屈だ。
単語帳を持っていない方の手が布団の中に伸びてくる。もぞもぞと動いて、何だろうと思っているとどうやら探っていたのは俺の右手らしかった。手繰り寄せて、握られる。ぎゅう、と力を込めたり、弱めたり。何だ、これ。



「優太くん私が小さい頃こうしてくれてたでしょ。私熱が出ると寂しくなったり、心細くなったり、気弱になったりしたから」



言われてみて、そういえばそうだったなと思い出す。小さい頃のAは、高熱を出すと枕に顔を押し付けてひっそりと泣いていることがよくあった。初めの頃は単に熱の諸症状で辛いのだろうと思っていたけれど、何度目かにそれが精神の不安定からくるものだと気付く。幼い時分に経験したことや、背負ってきたもの。そんなのの影響なんて微塵も感じさせないくらいに明るくて優しいいい子に育ってくれていて、けれどそれでも胸の内には押し殺してきたものが、抑え込んできたものがあったのだろう。測れないほどに、たくさん。それらがきっと、体の弱っているときには堪えきれず表に出てくるのだ。その度に俺はどうしてやればいいか分からなくて、ただ、Aが寝付くまでの間隣で手を握っていた。正解かは分からなかったけれど、そうしてやると少しは落ち着くようだった。





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