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男は女の情報、いやその仕事に関わる全ての情報を管理するような役職に就いている。仕事として扱う情報において、男は最初の砦であり、最後の砦でもあった。
その中でも女の情報は特に極秘そのものであり、拡散されればただ事だけでは済まされない。
そのため、男は状況によっては様々な手を使ってその情報を完全に削除しようと試みる必要があった。
そう、それはたとえ法を犯すようなことだとしても――
男は慣れたように言葉を並べたが、その内容から男の苦労が感じ取られた。
男はへらっと笑うも、纏うものは依然変わらない。
それに対し女は、少しの反省も見せずに男の言葉に付け加える。
「まあ、私のことを追ってきて巻き込まれたんだもの、仕方がないわよね?それに今回はあちらが上手くやってくれてたみたいだからまだ良いじゃない」
悪びれもなくそう話す女に、男はやや呆れつつも、これ以上は埒が明かないというようにため息をついた。
「……わかりました。でもしばらくはもう、あんなことこりごりです。さすがに肝が冷えました」
男はその時の様子を思い浮かべ、真剣な顔つきになった。男はその現場にはいなかったものの、女からの連絡をもらった時はひどく動揺したそうだ。
男の言葉からは心配の様子が見られる。
そんな男の言葉に、女は驚いて目を丸くした。
「あら、あなたなら『そのまま捕まってくれればよかったのに……』なんて言いそうだけれど?」
男は女の言葉に背筋が凍りつく。
いや、正確には、自分の声をそっくりに真似されたことに悪寒がした。
それは女にとってただの声真似であったが、そのクオリティは非常に高い。
まるで自分が本当にその言葉を言ったのではないかと、一度は誤解してしまうほどだ。
男は女を睨む。
その目は憎悪に満ちていた。
「俺の声を真似しないでもらえますか?気味が悪い」
男の作る性格からは見て取れない、腹の底から吐き出されたその言葉に、女は眉をひそめた。
しかし、すぐに男から目をそらし、素っ気なく「冗談よ」と呟いた。
「……まあ、思っていないわけじゃないですが。俺は、黙って敵にあなたを差し出すようなことはしませんよ」
男は平静に戻ると、女の想像の自分を肯定しつつも己の立ち位置を明らかにした。
そこまで自分は馬鹿ではない、そうとも読み取れる言葉も相まって、女はあっさりと引き下がることにした。
「……そう。それならいいわ」
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izawa(プロフ) - 東雲虚さん» ありがとうございます! (7月24日 21時) (レス) id: f153ef9291 (このIDを非表示/違反報告)
東雲虚 - とても面白い作品でした 更新楽しみに待ってます! (7月10日 14時) (レス) @page41 id: 272de617c9 (このIDを非表示/違反報告)
izawa(プロフ) - 明里香さん» ご指摘ありがとうございます!修正しました! (2022年10月5日 19時) (レス) id: f153ef9291 (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 51話、ブロンズヘアーじゃなくて、ブロンドヘアーです。 (2022年10月5日 6時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
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