52. ページ2
「……そうですね。正直、気持ち悪いくらいですよ。あれでは、いつ見透かされてもおかしくない」
そして男はアイスコーヒーをひと口。
チラリと女の表情を確認する。
「やっぱり気付いていた。なのにあなた、報告してないでしょう?」
男は黙って女の話を聞く。女は話を続けた。
「昔の過ちを繰り返す……そのつもりかしら?」
女の核心に迫る一言に、男は眉をひそめた。そして一度フッと笑うと、
「俺は姉さんがこのことを黙っていたからそうしたまでですが」
と、目の前の女だって同じことをしているということを遠回しに言い放った。
「素直じゃないわね」
――あの時の二の舞になど、絶対にさせない。
男はそう思いつつも、キュッと口を噤む。
拳を強く握りしめ、盛る思いを抑え込んだ。
「俺はまだ、執行猶予の身ですから」
男の口ぶりに、感情の色は見られなかった。
嫌という程に身についてしまった演技力のお陰であろうか。
男の隠したソレは見透かされずに女は感心して呟いた。
「相変わらず、律儀なのね」
◆◇◆◇
「仕事は順調?」
女の問いに、男は顔を歪ませ、首を横に振りながら答えた。
「やっと慣れてきた所ですかね……」
男の勘違いな反応に一度驚きつつも、女はため息混じりで男を正した。
「そうじゃないわ……My kid」
女の言葉を皮切りに、男はガラリと纏う雰囲気が変わった。
今までは陽気な好青年を醸し出していたソレは、妖しくも恐ろしい程に冷やかなものとなる。
「刺客でもない限り失敗することはありませんよ、ベルモット」
男は女をコードネームで呼び、ニヤリというよりはニコリと微笑んだ。
放った言葉に似合わない笑顔は気味が悪い。
それに加え、不気味なまでに落ち着いた様子は、相手の牽制に大いに役に立つ。
これがこの男の持つ力であった。
女は男の言葉に満足げに微笑んだ。
そして、退屈そうではあるものの素っ気なく呟いた。
「そう、ならよかった。今回私はただの保険。出番が無いと良いわね」
「それは俺も同感です。俺の仕事も減りますから……」
女の出番がなければ仕事が減る、と男は話す。
男はその仕事が些か面倒だと思いつつも、毎回確実に仕事をこなしていた。
誰よりも一番、その仕事の責任の重大さを理解していた。
「この前の可愛い子ちゃんとの一件も、処理するの大変だったんですよ……?」
295人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
izawa(プロフ) - 東雲虚さん» ありがとうございます! (7月24日 21時) (レス) id: f153ef9291 (このIDを非表示/違反報告)
東雲虚 - とても面白い作品でした 更新楽しみに待ってます! (7月10日 14時) (レス) @page41 id: 272de617c9 (このIDを非表示/違反報告)
izawa(プロフ) - 明里香さん» ご指摘ありがとうございます!修正しました! (2022年10月5日 19時) (レス) id: f153ef9291 (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 51話、ブロンズヘアーじゃなくて、ブロンドヘアーです。 (2022年10月5日 6時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ