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ばいばぁい、と間延びした声に手を振り返し、走って約束の場所へ向かう。
(あ〜もう……まだこんなに明るいのに……倒れそう…)
計画と違うことばかりで、おかしくなりそうだ。
ほてった頬にひんやりとした空気が冷たくて、傾き始めた夕日が元気のない木々を彩り始める。
茂みを分けて進めば、自前のシートの上にちょこんと座っているAの姿があった。
凛「っは、ゲホッ、A……!」
『……凛月』
凛「っはぁ、はぁ、はっ、帰ったかと…思った…」
『レオ先輩に伝言頼んだ時点で早く来ないのわかってたし、それは許してあげようかなって思ったの』
気まずいのか目を合わせないまま優しいことを言ってくれる彼女に、ゆっくりと歩み寄り目線を合わせた。
凛「…そう、ありがとう。チョコも……俺の、でしょ?」
そう言うと怒りを思い出したのか、ギロリと鋭い視線を送られてしまう。
『そうだよ、凛月のだった。要らないらしいし、真緒にあげようかなって思ってるけど』
凛「ちょっと、待ってってば」
本当にやりかねない顔つきに流石に焦り、持っていた小さな紙袋を彼女に差し出した。
入っている黒色の箱には黄色のサテン生地でできたリボンが丁寧に巻かれており、中には俺が作ったスイーツが入っている。
凛「これ!……はい」
突き出せば、戸惑った顔をしたAが俺を見上げてきた。
『……なに、え?何の袋?』
凛「バレンタインだよ……俺からの。」
『は…?な、なにそれ!私からのチョコ断った理由、もしかしてこれ?!』
凛「……そう。バレンタインって、外国では男がプレゼントすることの方が多いの。だから俺も渡したいなって思って……準備した」
流石に以前のAの話をするわけにはいかないけど、俺が準備した理由としては間違ってないのでいいだろう。
以前君が喜んでくれたから、またその顔が見たくて。
そう言って笑ってもらえる方が、本当は嬉しいんだけど。
でも、俺の理由なんてどうだっていい。
ただ君の顔が綻んでくれたら、それだけで全部解決なのだ。
だからどうか、
凛「受け取って……くれる?」
懇願するようにAを見つめて様子を伺う。
姑息で申し訳ないが、Aがこの顔に弱いことを俺は知ってしまっている。
少し俯いたAの顔は見えない。真っ黒な髪が夜空のカーテンのように彼女の顔を隠している。
目は合わないまま、少し顔を上げ口を開いた。
『やだ』
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かお(プロフ) - はじめまして!更新停止は悲しいですが、また更新して下さるのを待っています! (2021年6月26日 11時) (レス) id: 16a5bce890 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:春 | 作成日時:2021年4月1日 0時