心にも (ページ37)

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銀ノ魂篇／ゆめのむこうページ37

圓翔に、晋助が刀を振りかぶる。下ろそうとしたところで、視界が歪んだ。
刀は地面を割るばかりで避けた圓翔には当たらない。

咄嗟に動けない晋助に圓翔が靴の裏に仕込んでいた銃を出していた。
撃たれるそれを前に走って避ける。だが途中で脚に力が入らなくなり、倒れてしまった。

晋助はもう既に、戦えているのがおかしい重傷なのだ。火之迦具土神の制御装置を破壊した彼を猩覚が発見した時、ハッキリ言って死んでいると思った。
だが晋助は、通信機越しに武市に言った。「先に行け」と。自分の事なんか１つも言わなかった。

知る必要も、知らせる必要も無い。まだ死ぬワケにはいかない、立っていなくてはならない。
万斉やまた子や武市、彼等の信じた高杉晋助で居なくてはならないからと。

しらせる必要はない？
先頭に立っててめーらを叱咤してた男が、本当はもう立つ事もままならねェ死に損ないである事をか。

晋助は地面に背を付けると、解放軍を刺し、斬る。横から飛んできた弾丸が頬を掠めるが、すぐに収まった。小太郎が銃を撃つ連中へ爆弾を投げたのだ。坂本も銃を連射している。

傷つきながら、懸命に。

しる必要はない？
それでもまだ立ち上がろうとしている英雄(おとこたち)が、本当は他の連中と何ら変わらない、ただの人間である事をか。

俺達は俺達を信じ戦う連中のために、英雄として立ち続けてきた。立ち続けなければならなかった。

圓翔の手が剣を掴む。

だが、だからこそ誰よりしっている。

英雄などどこにもいない。それは作られた幻想であることを。
そして、幻想(ゆめ)はいつかさめる事も。

圓翔が晋助に向かって走り、光の剣を振りかぶる。だが迫ってきた弾丸に気付き、晋助を斬れなかった。

＿＿＿それでも、お前達はそこに立つのか。

英雄などいなくなった、幻想(ゆめ)の向こう側に。ただの高杉晋助(にんげん)の隣に。

「晋助様ァァァァァァ！！」

銃を撃ったのは、武市に支えられるまた子だった。その声に押される様に、晋助は身体を起こす。

夢を見ていたのは、俺か。

そして、圓翔が剣を持っている右腕を切り落とした。

英雄なんざ、もういらねェよ。