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銀ノ魂篇/本当の戦場 ページ38

右腕までも切り落とされた圓翔は、ドッと前に倒れる。

誰もが息を呑んでその光景を見つめていると、空中に赤が混じる。
血を吐いた晋助が地面に膝を付くと、解放軍は彼に向けて一斉に銃を向けた。すぐに小太郎や坂本の部下も圓翔へ銃を向け、2人は周囲を囲われる。


「そこまでだ」


膠着する彼等に、そう声がかかった。


「もう充分だ。我等は憎しみをぶつけ合うためにここに来たのではない。それを止めるために来た」


解放軍が振り返り、人間達が目線を上げる。

紫雀の隣で言っていたのは、徳川喜々だった。


「ならば、我等もまた止まらねばなるまい」


彼は沢山憎み、憎まれてきた。それでもここに居るのは、教えてもらったから。


「復讐に復讐で応えていては、憎しみの螺旋は終わらぬ。だからすまぬ、皆の者。これえてくれぬか」


晋助は黙ったままだった。脳裏を過るのは、今はもう逝ってしまった仲間達。
特に、晋助を火之迦具土神の制御装置へ送るために自ら敵を引きつけ自爆した、河上万斉。

それでも、黙ったままだった。


「その必要はない。とどめをさすがいい」


晋助が目線を上げる。圓翔が言っていた。


「止まろうが止まるまいが、その憎しみは消えはしない。その悲しみも苦しみも、生きている限り続く」


彼は兄の恋人を好きになった。だから兄を騙し、仲間に殺させ、彼女を奪った。
それでも彼女は強かった。痛みと共に生きる強さがあった。

硝煙の皇子は、戦場へ戦いに赴いていたのではない。ずっと逃げていただけだった。
苦しみと闘う彼女の強さを、彼女から逃げ続ける自分の弱さを、生と死の間に居る時だけ忘れられた。
……何もできないまま彼女を失ってしまった悲しみを、忘れられた。


「そうして今も逃げ続けている。戦場(ここ)へ……。私には、彼女を失った事を苦しむ資格すらない。ならば、逃げ続けたまま戦場(ここ)で果てるのも運命(さだめ)だろう」

「……戦が終わるのが恐ェかよ。そいつが終われば英雄もただの弱い人間に還っちまう」


晋助は言った。刀を手に取ると、刃先を地面に向けて刺した。


「だが、そここそが本当の戦場だろう。その身体じゃもう戦場に立つ事もできまい。逃げる事もできなくなったその身体で苦しみもがき続けるがいい、ただの人間よ。俺達には、死すらなまぬるかろう」

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作者名:ゆず | 作成日時:2020年10月19日 19時

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