わたの原

もう１人の生き残り ページ7

普段滅多に来ないから、目当てのものを見つけるのにも時間がかかった。


暫く指を迷わせて、やっと『六角事件』と書かれたそれを手に取る。




「ご苦労様です、沖田隊長！！」




苦い気持ちでその資料を眺めていれば、突然そんな大声で名前を呼ばれた。




「出廻りから帰ったとみるや資料室で勉強とは、流石っス隊長！！ 文武両道！！ 隊長は侍の鑑っス！！ 自分一生隊長に付いて、」
「来なくていい」




神山の無駄に大きな声を静かに遮る。


けれど彼は気にもせず、言葉を続けた。




「六角事件ですか！！ また随分昔の事件を！！ 意外っス！！ 自分、隊長は過去を振り返らない方だと思っておりました！！」


「未来に進むためには時に過去を振り返る事も必要なんでィ、覚えとけ」


「イエッサー！！ メモしときます！！」


「わかったらそのままＵターンして過去を振り返れ。一生戻ってこなくていいから、過去から」


「イエッサー！！ メモしときます！！」


「メモじゃなくて帰れっていってんだ」




こいつは本当に人間だろうか、と沖田がウンザリしたところで、目の前の彼の口が止まるワケではない。




「しかし懐かしいですね、六角事件！！」


「オイ、きいてんのか」


「自分が沖田隊長にホレたのは、何を隠そうあの時でありました」


「隠してくれよ、頼むから神隠しにあってくれよお願い神様」




お前にホレられるくらいだったらAにホレられたいわ。




「凶悪な攘夷浪士を前に次々に倒れてゆく仲間達、最後に残ったのは隊長と自分！！ 互いに背中を預け護り合い激戦をくぐり抜けることで自分は、隊長を運命共同体とも呼べるような存在と認識するにまで至ったのです！！」


「お前何にもしてなかっただろ。お前に背中預ける位だったらロッカーに預けるわ」




心底ウンザリしながら面倒臭さを隠さずに言えば、ふと我に返ったように質問された。




「しかし何故、今になって六角事件などお調べに！？」




まあ妥当な問いだ。


霧江が持っていた脇差を神山に向けてポイと放る。




「刺された。親父の仇だって、六角屋の娘に」

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