〇拾伍〇 ページ16
月下美人。
それは月夜の元に咲く、たった一度の生命だった。夜に咲き始めて翌朝までの一晩でしぼみ、雄蕊に受粉ができなければ散ってしまう。
満月の日に一斉に咲く、というのはもはや俗説であったが、露月は一途に信じていた。優美なふくらみをなぞりながら夢想する月下美人の花は、月光を吸い込み、満月の下に咲くにこそ相応しいと思えたから。
麗しき花。香り清々しく、花冠美しく、闇に淡く浮かぶ様は神々しい。
夜の間だけ妖しく咲き誇り、月下の儚い命でありながら、見るものを惹き付け虜にして止まない。露月も、この花に魅入られた人間の一人だった。
「…貴方たち、もうすぐ咲くわよね…。」
ぽつり。露月は、花へ語りかける。
今までしていなかった、しようとも思わなかったことを、何故今日はしたくなるのだろう。応えのない会話は、虚しくなるだけなのに。
だから、声を出すことを諦めたのに。
「私にはきちんとした暦がわからないけれど。」
でも、自分の体は案外喋ることを望んでいたのかもしれない。喉が震える感覚は新鮮で心地よく、考えるよりも先に言葉がこぼれる。
「きっと今は、水無月か文月ね。全ての鈴蘭が花を咲かせたから。」
植物の成長や月の満ち欠けで、大雑把にはわかるものの露月には正確な日付を確認する術が無い。
というのも、家が無いからだ。
下位女官たちは、住まいとして一つの宮を与えられており、共同生活を送っている。しかし当然そこに露月の居場所はなく、安心して睡眠をとれるのもこの“秘密基地”に限られていた。
「…月が、きれい。」
さっきまで薄雲に隠れていた月が、やっと淡い光と共に顔を覗かせた。満月になりきれない、二日分欠けた月。
密植する月下美人に寄り添いながら、露月は睡魔へ意識を手放す。
白銀の髪が、月下に蒼く照らされた。
続く お気に入り登録で更新チェックしよう!
最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している
←〇拾肆〇
149人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
√ルート(プロフ) - 亜純さん» コメントありがとうございます!私の文章力が拙いせいでお待たせしてしまい申し訳ありません。こだわりが強すぎてどうも筆が進まなくて.....不定期更新は続きますが、少しでも皆様も期待に添えるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします!! (2018年7月31日 12時) (レス) id: 46231e2a59 (このIDを非表示/違反報告)
亜純(プロフ) - 続きが気になります!更新頑張ってください! (2018年7月31日 0時) (レス) id: 430739def7 (このIDを非表示/違反報告)
√ルート(プロフ) - 返信が遅くなってしまい、誠に失礼致しました。まだまだ稚拙な文章しか書けない私には、勿体無いご感想です。本当にありがとうございます!!主人公の美しい一面も、裏を覗けば苦悩や窮愁に埋め尽くされている。主人公の濃密な人生を、皆様に楽しんで頂ければ幸いです。 (2018年5月27日 16時) (レス) id: 46231e2a59 (このIDを非表示/違反報告)
Seere(プロフ) - 一語一句が本当に綺麗で、琴線に触れるものがある文章ですね。主人公の凛とした美しさに儚さを感じます。これから後宮でどんな活躍を見せるのか楽しみです。応援しております(^^) (2018年5月26日 21時) (レス) id: 602f4a06eb (このIDを非表示/違反報告)
√ルート(プロフ) - 麻侑さん» ありがとうございますっっ!比喩表現には特にこだわっているので、褒めていただけて嬉しいです!!嬉しすぎて変な笑いが込み上げてきそう(クエヘヘヘヘヘッヘ←不定期更新ですが見守って頂けると有難いです。 (2018年5月19日 10時) (レス) id: 46231e2a59 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:√ルート | 作成日時:2018年5月18日 0時