006 ページ7
*
予てより学園ものの小説も読んでいたAは、中学からでも学校に通ってみたいと思うようになっていた。学校へ通い、授業を受け、クラスメートと喋り、委員会や行事に参加して、時には寄り道してーーそういう「ごく普通」の生活をしてみたいと思っていた。
まぁ無理だろうな、と半ば諦めてはいる。Aが病弱なのは生まれ持ったものだからだ。
「お待たせっ、教材を持ってきたぞお！ さあ一緒にやろう♪」
「やりましょう〜♪ 黙ってやれば、きっと一人の時よりも早く終わりますね……？」
「そうだなあ！ 多分としか言えないがっ、はははは☆」
朗らかな兄につられて、Aもちょっと笑みを浮かべる。Aは人とほとんど関わらないために表情も乏しく、気弱に頬を緩めるだけだ。
さっきと同様にAの斜め向かいに座った兄は、カチカチとシャープペンシルのヘッドをノックした。最近の兄は、鉛筆ではなくシャープペンシルを使っていることが多い。たしかに、世の中の小説でも、小学校が舞台だと登場人物も鉛筆を使っている場合が多く、中学以上だとシャープペンシルを使っている場合が多い印象がある。
「『中学生』になるんですね〜……」
思わずAはしみじみと呟いた。
「うん？ まあ、そうだなあ。中学生になるといっても、まだまだ半年以上も先の話だがなあ。そろそろシャーペンを使っても怒られることはないだろうと思ってな、いざシャーペンデビュー……☆」
「いざってほど『最近』でもないのでは？」
「ははは、そうだなあ。使い始めたのが誕生日にシャーペンを貰った時からだから、まあそこそこには経っているなあ」
兄の誕生日は5月中旬であるから、それから既に半月は経っている。全くもって「いざ」ではない。ただ、そこを突っ込むのは少し野暮だったかな、とAは思った。
そこからは水分補給を適当に挟みつつ、黙々と手を動かす。そうしてほぼ一時間が経った頃。
「よおし、大体終わった……☆」
兄がシャープペンシルを置き、背を反らして伸びをした。
「お疲れ様です〜」
Aはちょうど鉛筆を置いて水分補給をしているところだった。今日のピッチャーの中身は紅茶だ。麦茶が入っていることもあるが、Aはどちらかというと紅茶の方を好む。
「Aさんこそお疲れ様」
「……♪」
ぐりぐりと頭を撫でられる。
「気分転換もすべきだぞお」
「それじゃ……」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 60人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Chris(プロフ) - 冬枯さん» コメントありがとうございます。嬉しさで机殴りながら返信打ってます(だって初コメ……初コメ……！！)。遅々として進まない筆で申し訳ありませんが、少しずつでも更新してまいりますので今後もお楽しみいただければ幸いです。 (2020年8月21日 20時) (
レス) id: 313ba381d4 (このIDを非表示/違反報告)
冬枯(プロフ) - 楽しく読ませて頂いております！自分も友達から勧められ、新シリーズから始めた者です。流星の篝火は無理です。本当に無理。良い話すぎて泣きます。良さの反動と言えど、文を紡いでいくのはすごいと思います！これからも更新楽しみに待ってます！ (2020年8月21日 19時) (レス) id: ec10afebdf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Chris | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/chrisinfo/
作成日時：2020年6月13日 0時
