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 「うわわ……ええと、アイロンアイロンと……」

 こういうことが多々あるため、奏汰の部屋にはアイロンやセロハンテープ、プリンター、重しなどが常備された。プリントを乾かし、アイロンで伸ばし、セロハンテープで補修し、プリンターで複製する。こうすることで、概ね元通りのプリントの完成だ。藁半紙もしっかり完備されているが、このご時世藁半紙など小学校でくらいしか使われないらしい。Aは小学校には通っていないので、本当のところどうなのかは知らないが、少なくとも小学校時代の兄の宿題のプリントは藁半紙だった。
 そうして、今回も手順を踏んでほぼ元通りのプリントを作り直し、Aは奏汰のカバンに手を入れて、教科書やら参考書やらを全て取り出した。ふやけているものは丁寧にタオルで水分を吸い、取り切れなかったものは重しやら何やらを用いて何とかする。何でこんなこと毎度してるんだろうと思わないでもないが、Aとてやりたいからやっているのであって、文句を言える立場でもない。

 「いつもいつもすみませんね?」

 「兄にタオル数枚持たせておいた方がいいかもしれませんね」

 「えー、さいきんはちあきが『たおる』をかしてくれますからいりません」

 「ちあきさんご苦労様すぎる」

 本当にご苦労様である。

 「それに、Aがまいかいせわしてくれるので、いまのままでもいいとおもいます」

 「うーん、ド正論だ……」

 返す言葉もない。そして、よくよく考えてみれば、タオルの数が増えたところで濡れる教科書の数は減らない。つまり、仕事の量は何も減らない。

 「プリント以外はあります?」

 「とくにありませんね。きょうでた『かだい』だと、『せいがく』はうたうだけだし、『たいいく』も『じつぎ』だけなので……?」

 「……本当にこれ高校なんだろうか」

 やっている内容はたしかに高校の範囲だが、如何せん絶対量が少なすぎる気がする。

 「『こうこう』ですよ。でも、まじめに『じゅぎょう』というのをうけているものはすくないですね。かくいうぼくも、『じゅぎょう』にはほとんどでていません」

 「出てないんかーい」

 学費がもったいない。私立だから、安くはないだろうに……などと思うが、冷静に考えるとAは学費の相場を知らないので、結論を下すことはできないのだった。

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Chris(プロフ) - 冬枯さん» コメントありがとうございます。嬉しさで机殴りながら返信打ってます(だって初コメ……初コメ……!!)。遅々として進まない筆で申し訳ありませんが、少しずつでも更新してまいりますので今後もお楽しみいただければ幸いです。 (2020年8月21日 20時) (レス) id: 313ba381d4 (このIDを非表示/違反報告)
冬枯(プロフ) - 楽しく読ませて頂いております!自分も友達から勧められ、新シリーズから始めた者です。流星の篝火は無理です。本当に無理。良い話すぎて泣きます。良さの反動と言えど、文を紡いでいくのはすごいと思います!これからも更新楽しみに待ってます! (2020年8月21日 19時) (レス) id: ec10afebdf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Chris | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/chrisinfo/  
作成日時:2020年6月13日 0時

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