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千秋は英智の差し出した地図を受け取った。黒曜石でできたその地図は、円盤のような形をしていて、ちょうど星座早見のようだ。白くあらわされた銀河の左の岸に沿い一条の鉄道線路が南へと伸びている。停車場や三角標、泉水や森が、青や橙や緑の光でちりばめられた、美しい地図だった。
「地図もいいけど、外もご覧よ。ほら、りんどうの花だ。すっかり秋だね」
英智が言った。
線路に沿って、りんどうの花が咲き誇っている。小さく可愛らしい紫色の花は、ゆらゆらと揺れて、まるでランプシェードのようだ。三角標の列は煙るように光り立っている。何ともいえぬ美しさに、Aはほうとため息をついた。
「ああ、綺麗だなあ。図鑑でしか見たことはなかったが、実際は想像よりもずっと可憐でしたたかな光だ」
千秋が言った。
「まあ、銀河鉄道なんだから、地上よりもずっと美しく見えるだろうけれどね」
英智が笑う。
「時にAちゃんは幾つかな? 見たところ中学生くらい?」
「小6です」
Aが答えると、二人の少年は少し目を見開いた。
「小6かあ。俺は高3だ」
「高3?!」
高3にしてはあまりに幼い見た目だ。
「まあ驚くのも無理ないだろう。何せ見た目は中3だからな」
千秋が言った。
「あっ、やっぱり中身は高3なんだ。僕のことを名字で呼び捨てにするし、僕が千秋と呼んでも驚かないから、もしかしてと思ったら」
「おお、じゃあ***も3-Aの***なのだな! 見た目が何というか、かなり幼いから確証が持てなかったんだがそうか、『同じ』があるのは嬉しいな!」
不思議なことに、千秋の言葉には所々ノイズがかかった。英智のことを呼んでいるのだろうが、なぜかAには聞き取れない。そういうこともあるのだろうとAは無理に納得することにした。
「で、Aちゃんは見た目も中身も小6か。ふむ……」
英智は手を顎にやり、考えるそぶりを見せた。
「何か気にかかることでもあるのか?」
「ああいや、地図のことなんだけどね」
少し不安げな声の千秋に、英智は地図を示した。
「ああ、そういえばどうして***は地図を持っていたんだ? これ、死んでないと貰えないはずだろう?」
千秋が言う。Aは思わず「え?!」と声を上げてしまった。そんな記述は『銀河鉄道の夜』にはなかったはずだ。
「そうなんですか?!」
「え、違うのか? 俺はてっきり……」
千秋が首を傾げた。
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Chris(プロフ) - 冬枯さん» コメントありがとうございます。嬉しさで机殴りながら返信打ってます(だって初コメ……初コメ……!!)。遅々として進まない筆で申し訳ありませんが、少しずつでも更新してまいりますので今後もお楽しみいただければ幸いです。 (2020年8月21日 20時) (レス) id: 313ba381d4 (このIDを非表示/違反報告)
冬枯(プロフ) - 楽しく読ませて頂いております!自分も友達から勧められ、新シリーズから始めた者です。流星の篝火は無理です。本当に無理。良い話すぎて泣きます。良さの反動と言えど、文を紡いでいくのはすごいと思います!これからも更新楽しみに待ってます! (2020年8月21日 19時) (レス) id: ec10afebdf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Chris | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/chrisinfo/
作成日時:2020年6月13日 0時