微睡みに落ちる４【降谷零/安室透】

Case.136 ページ18

「で、どうなんです？」

ずいっと距離を縮めてくるのをなだめて、にこりと笑う。

「その期待に答えて、晴れて恋人同士よ」
「わぁ！おめでとうございます！」
「こりゃめでてぇなぁ！」

わっと盛り上がった2人に苦笑しながら、スープをごくりと飲み込んだ。

「安室さんとAさんなら、美男美女で負けなしですね！」
「…何も競わないけど」

私達は一体何と戦ってるの。

「それなら、今日は何だってこんなやけ食いしてんだい？愚痴なら安室さんに聞いてもらった方が…」
「…その透とここに来る予定が、仕事の都合でドタキャンされたのよ」

そう答えると、大将と彩代が一気に不憫な目になった。

「安室さん、お忙しそうですもんね…」
「そういや、梓ちゃんがたまに愚痴ってたなぁ…当日欠勤が多いって…」

この前熱を入れて語ってた安室透武勇伝はどこへ行ったのか。一応ダメなところも知っているらしい。

「探偵業だし、不規則な仕事なのは分かってたから、あたるつもりはないけどね…」

あのデートの時だってそうだけど、私も似たような立場だからこれくらい飲み込める。
それでも。

「…2週間ぶりに会えると思ったんだけどな」

思うところは、私だってある。

ポアロに行けば会えると思ってたけど、タイミングが悪くすれ違ってばかりだった。
零の家に行くにも鍵がないし、外で会うのも敢えて控えてたから、仕方のないことだとは思うけど。

「Aさん…」

隣の彩代がしゅんと肩を落とした。どうやら気落ちさせたらしい。慌ててなんとか取り繕う。

「ああ、気にしないで？透ならちゃんと埋め合わせしてくれるし、今度連れてきた時は目一杯奢らせるから」

それは嘘じゃないし、組織の方が落ち着いたなら、少しは会う頻度を戻せるはず。

「そうかもしれませんけど…店長…」

ちらりと彩代の視線を受けた大将が、こくりと頷いた。

「今日の餃子と炒飯はまけにしといてやるよ、Aちゃん」
「さすが店長！」
「あら、そんなこと言っていいの？甘えちゃうけど」

ディスカウントに遠慮はしない主義だ。貰えるものは貰う。

「こんな時くらい甘えて下さい！Aさんは大切な常連さんですから―――」


「―――大将、また来たよ！」


彩代の声を遮った元気な挨拶は、ハスキーな女の子の声だった。

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