微睡みに落ちる４【降谷零/安室透】

Case.137 ページ19

「おう、マリちゃんか！」
「だーかーらー、ボクはマリじゃなくて真純だ――って、あれ？見かけないお客さんだな」

きょとんとこちらを見る瞳が丸くなる。

「マリちゃんはAちゃんと会うのは初めてか。最近常連になってくれたばかりの別嬪さんだよ」
「そうなのか！女の子の常連仲間が出来て嬉しいな！ボクは真純。よろしくな、Aさん！」
「ええ。よろしくね、真純ちゃん」
「ああ！」

快活な返事ににこりと笑う。
ボーイッシュな顔立ちで、黒髪にショートカット、笑うと口元に小さく覗く八重歯。

…まさか、こんなところで会うことになるなんて。


秀一の妹―――世良真純。


「それにしても、体細いのにたくさん食べてるなぁ。食べ切れるのか、それ」
「ちょっとね、やけ食い中なの」

肩をすくめてから、メンマを3本まとめてぱくりと口の中に放り込む。うん、美味しい。

「やけ食い？何かあったのか？」
「久しぶりに会えると思ってた彼氏が、急な仕事で会えなくなったのよ」

そう言うと、真純ちゃんはなるほどなと呟いて、私に向き直った。

「こんな美人を放っておく酷い男なんてやめて、ボクにしてみない？」

パチンとウインクがつく。口元に覗いた八重歯が愛嬌を出してて、格好いいけどなんだか可愛い。

「ふふっ、魅力的な誘いだけど…お断りしておくわ」
「そっかぁ。Aさんなら大歓迎なんだけどなぁ」
「残念だけど、結構良い男なのよ。もし真純ちゃんが男でも、迷わず彼を選ぶくらいにはね」
「あはは、それじゃあしょうがないか。…ん？」

小さなバイブ音が聞こえて、真純ちゃんがポケットからスマホを取り出す。どうやら電話らしい。
不思議そうな顔で画面を見るあたり、電話の相手は予想外だったみたいだ。

「悪い、ちょっと電話出てくる。…あ、今日も閻魔大王ラーメンね」
「はーい！閻魔大王ラーメン一丁！」
「あいよ！」

大将と彩代の高らかな声に送り出されて、真純ちゃんが店の外に出て行った。

…ちょうどいい。

「…ねぇ大将、どうして真純ちゃんを“マリ”って呼んでるの？」
「うん？ああ、前に来た時に、ハンカチを忘れていってな。そのハンカチに、ローマ字で“マリ”って刺繍があったんだよ」
「ローマ字で？」

それが本当なら、確かに妙だけど。

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