【本編小説】この夏は君と。 (ページ7)

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◇6月のとある日のこと［御影蒼也］ページ7

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まだ6月とは言えども今年はなかなか暑い。部活帰りの蒼也は額に垂れた一筋の汗を拭う。心なしか後ろに大雑把にまとめた髪の毛も少し湿っているような気がする。もしかしたら暑いくせに何故か長袖を着用し、さらにマスクまでしているのが良くないのかもしれない。ただし今から脱ぐのは面倒くさいのでやめておく。

その代わりに蒼也は斜めがけにしたエナメルの中から飲みかけのペットボトルを取り出した。そしてマスクを下にずらし、それを一気に飲む。既に中身はだいぶぬるくなっていたが、喉は潤ったので良しとする。

梅雨の時期のこの中で珍しく晴れたと思ったらこの暑さ。絶対おかしい。絶対どっか狂ってる。そう心の中でブツブツと文句を言いながらもゆっくりとしたペースで歩いていると、少し離れたところに自分の家が見えてきた。

ほんの少し歩くペースを上げる。生暖かい風が蒼也の頬をなでていく。よし。帰ったらとりあえず冷たいお茶でも飲んでさっさと寝よう。

「……あれ？」

しかしポストの目の前まで来たところで蒼也は足を止めた。今回は別に鍵がなくなったわけではない。確かにそれがしょっちゅうあることだったとしても。

珍し、と小さく呟いてポストから飛び出ている白い封筒を引っ張り出す。姉に向けてのラブレターだろうか。いやいや。あの人にそんなものが届くわけがない。第一、勉強で精一杯だろうと頭をふってその考えを追い出す。

一見、真っ白に見えていたその封筒だったが、裏を返すと下の方に小さく『御影蒼也様へ』と書かれていた。まさか自分宛だとは思っていなかった蒼也は驚いた。もちろん全く表情には出ていないのだが。

何故かほんの少し重みのある封筒を口にくわえ、整理のされていないエナメルの奥底からゴソゴソと家の鍵を探そうとした。

その時なんだか鈍い音がして、くわえていた封筒が軽くなったような気がした。封筒の中から何かが落ちたようだ。蒼也はしゃがみこんでドアの前に落ちたその、日の光をうけて青色に輝いている鍵を拾い上げて天にかざした。きれいだなと思ったのも束の間。すぐに視線をおとして口から封筒を離す。

蒼也はもし怪しいものだったらすぐに送り返してやると密かに決心をして、手紙を封筒から取り出した。

その招待状を何故か家の前で読み切る頃にはこの暑さのことはすっかり忘れていた。

──そういえば、今日は鍵をちゃんと入れた覚えが全くなかったな。