【本編小説】この夏は君と。 (ページ21)

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先程電柱にぶつかった時に、思いっきりぶつけた額を摩りながら、ドアをそーっと開ける。

玄関はいつも通り、黒いパンプスが1足だけ置いてあって、他の靴は靴箱に全てしまわれていた。歩きにくいローファーを脱ぎ、パンプスの隣に揃えておく。

部屋にはいり、

「ただいま。」

と言いながらソファーにぼふっと深く座り込む。

「雪おかえりー！」

いつも通りののハイテンションと人あたりのいい笑顔で雪に声をかけた。

そもそもこの夏に行く旅行？の招待状は、親の許可も降りなければ行けない。

私だけの一存で決められる物じゃないし、と雪はカバンに入れっぱなしだった手紙を出す。

キッチンで夕食の用意をしている母を横目に雪は封筒から写真を取り出し、眺めていた。

やっぱりこの景色はすごく気になるなぁ。

「なになに～？すごく綺麗だねこの写真！朝から眺めてるこの手紙は誰から？まさか彼氏～？」

料理をしていたはずの母が、雪の座っているソファーの後ろに寄り掛かりながら、にやにやとしながら聞いてくる。彼氏なんか居ないのは母も分かった上でからかっていた。

「夏の間、ここに来ませんか、って招待状。ていうか、彼氏なんか居ないよ。私。」

しっかりと最後に断言し、でも、と言葉を続けた。

「夏の間全部行っちゃうと、お母さんたちが仕事行ってる間に家の家事とか出来なくなって負担かけちゃうし、私は行かな＿＿＿＿＿」

「招待状なんて素敵だわぁ！！きっとその旅行には雪以外の子も来るのよね！そうしたら雪の人見知りも治るかもしれないし、ピッタリだわ！旅行に必要なものも揃えなくちゃね！今月の最後の日に行くんだから、早めに買い物に行かないと～！」

雪が行かないと言い切る前に、母は興奮気味に早口で雪の言葉をさえぎった。

母の中では、雪は完全にこの招待状の場所に行くことになってしまっている。

母がこうなってしまったら、雪の意見はもう聞こえないに等しい。テンションがここまで上がってしまった母には、何を言っても無駄なのは娘である雪がよく知っている。母が話を聞かないのもあるが、雪の意思表示が弱いのも原因の一つである。雪はもう潔く諦めることにした。

なんでこんなに自分の意思表示が下手なんだろう……。

そんなことを考える雪は半ば強制的にこの招待に乗ることになった。