【本編小説】この夏は君と。 (ページ14)

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◆『いつもとは違う』招待状[藤景紫苑] ページ14

透き通るような青空が広がる、よく晴れた朝のこと。

「お嬢様、東(あずま)でございます」

扉越しでもハッキリと聞こえる声と共に、自室の扉がノックされた。

「入ってどうぞ」

鏡の前に座って髪を整えていた私は、髪を梳かす手を休めることなく応えた。

失礼致します、という声がして扉が開く。
入って来たのは、今年で60歳になる我が家の執事、東だった。
白髪交じりの髪とは対照的に、その背筋はまるでものさしでも入っているかのように真っ直ぐである。幼い頃から彼の事を見て来たが、白髪とシワが増えたこと以外は記憶の中と現在でほとんど変わらない。

「お嬢様。お嬢様宛てにお手紙が届いております。今すぐご覧になられますか？」

「ええ、そうするわ。そこに置いておいてちょうだい」

「かしこまりました」

手を止めて鏡台の上を指すと、彼は音も立てずに素早く手紙を置いた。

「では、私は失礼させて頂きます」

「ええ。ありがとう、東」

「とんでもございません」

彼は目礼した後、足音を一切立てずに扉の向こうへ消えていった。

それを見届けてから、私は鏡台に置かれた手紙に視線を落とした。

「また晩餐会の招待状かしら？」

そう口に出してみたものの、目に入った瞬間から普段届く招待状とは少し違う、違和感のようなものを感じていた。『いつもの』招待状はもっと、相手が自分たちの品位を見せつけようとする下心が見え隠れしている。まあ、全ての家がそうであるという訳ではないけれど。
今、目の前にある招待状はとてもシンプルなデザインだった。

持ち上げてみると、紙だけではない重みを感じた。

封を開けて慎重に中身を一つずつ取り出していった。
その結果、出てきた物は＿＿

「手紙と写真と……鍵？」

アンティーク調の鍵の持ち手には、紫色の宝石がはめられていた。それは丁度、鏡に映る自分の髪色と似ていた。

写真を鏡台の上に広げて、手紙に目を通す。
一番最初に目に飛び込んできたメッセージ、それと写真を交互に見て微笑んだ。

「東、ちょっと来て！」

声を張り上げて名を呼ぶと、彼は数秒でやって来た。

「お呼びでしょうか、お嬢様」

「ええ。東＿＿夏休み中の予定を全てキャンセルしてちょうだい」

我ながら酷いわがままだと思う。
彼は少し目を見張った後、私が持つ手紙と私の顔を見て穏やかに微笑んだ。

「かしこまりました」

「ありがとう」

「とんでもございません」

先程も交わした会話。だが、彼の声はとても優しかった。