【本編小説】この夏は君と。 (ページ13)

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◇とある初夏の勘違い[烏野雅美] ページ13

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　カーテンを閉めたままの薄暗い部屋。俄にも広いとは言い難いその部屋には、ビッシリとゲームのカセットが入れられた棚が並んでいる。そんな部屋の片隅にあるベッドで、黒髪が特徴的な青年──烏野雅美は目を覚ました。
　動物の様に低く唸りながらも最初に手にしたのはスマートフォンだ。

　まず確認したのはSNSに来た通知とメール、昨夜投稿した動画の伸びゆき。上々だ、今回も問題ない。そう安心しながら、雅美は時間を二度見した。安心できない時間だった。
　表示された時間は午後5時29分。三度見、四度見した後、やっと雅美は自分がかなり寝過ごした事に気が付いた。

　ここ最近動画の編集のせいで徹夜続きだったせいだろうか。学校もサボってしまった。というのも、雅美はとある動画配信サイトで200万人を超えるチャンネル登録者数を持つ大人気動画配信者だった。

　雅美が心配したのは父の事。とある理由で父とは二人暮らしだ。家事を担当しているのは雅美で、従って父の朝食や弁当を作っているのも雅美だった。
　リビングに入ると、テーブルには紙とラップで包まれた食事があった。

「！わ…これお父さんが作ったのか」

　『いつもお疲れ様。起きたら食べろよ！』そう書かれたメモが置いてあった。その側にあったのは、スクランブルエッグになりかけた卵焼きや破裂したウィンナー。下手くそだな、なんて思いながらも、雅美はそれを迷わず食べた。

　かなり遅めの昼食をとり、配達物がないか確認する為玄関へ向かう。あったのは回覧板と新聞の朝刊と雅美宛の手紙。手紙に関しては何処か重みがあり、何か入っているようだった。

「ファンレターなら会社でとってくれるはずなんだけどな…うわなんだこれ、鍵？」

　封筒に手を入れると、金属の冷たい感覚。出すと、そこには澄んだ黒の宝石が嵌め込まれた鍵があった。好奇心が無意識に働く。続いて手紙、写真と、中に入っていたものを雅美は一通り見て「要するに招待状って事ね」と鼻で溜め息を吐いた。

　玄関で座って行くか否か迷っていると、目の前の鉄製のドアが開いて父が現れた。お互い肩をビクッとさせる。

「何してんだよこんなとこで～」
「いやなんか変な手紙来てて…めっちゃ綺麗なとこなんだけど、招待状」
「おーいいじゃん。何？動画のイベント？」

　父にそう言われてやっと雅美は「そういうことか」と納得した。全くもって検討違いだが。かくして、雅美は何の疑いもなくその場所へと行くことを決めた。