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また煙草に口をつける。
「ふう」
「うわ、なにすんだよ！」
その整った顔めがけて燻ぶった煙を吐き出せば薄く煙る灰色の中で大野さんが目を閉じてパタパタと手のひらで
それに口元が緩むことをあきらめて私はスーツの裏にあるポケットに手を突っ込んだ。
あとほんの少し我慢すればただのチョコレートになるはずだったのに。
「ん。残念ながら市販品ですよ。忙しくて時間なかったんで」
「ごほ、ごほ…あぁ、このさいもう手づくりかどうかはどうでもいいや。あと五分」
私が差し出した手のひらサイズの小さな箱を大野さんはひょいと掴み上げる。
お金のかからない簡易包装で包まれたそれをさっさと破り開けると中に並んだまあるいチョコレートを綺麗でいて私よりも太い指でつまみ上げた。
「ボンボンか？」
「そーです」
口の中にポップコーンよろしくチョコを放り込んだ大野さんは静かにそれを咀嚼している。
ほんのりと、そのチョコレートに包み隠されたアルコールの匂いがこちらにまで漂ってくるような気がした。
「ウイスキーボンボンか…美味いな」
「市販品ですから。それ一粒数百円するんで味わって食べてください」
「まじか…」
次の一粒を手に取っていた大野さんはその手をためらうように止めた。
しがないサラリーマンやOLの感覚なんてこんなものだ。
でも結局ぽいぽいとボンボンを口に運んでいる。
大野さんがチョコレートが好きだと知ったときは意外だと驚いたものだけど、その理由が奥さんがチョコレートが好きな人で家には袋で常備してあるからだというところが大野さんらしい。
そのおかげで私の差し出す市販のウイスキーボンボンも大野さんのおなかに納まっているのだとしたら私はその奥さんに感謝をしなければいけないことになるんだろうか。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月14日 18時
